s/行為/好意/g

 ——始まりは最悪だった。
 セブンスヘブンの地下から始まった関係は断ち切ることができないまま、旅をしてしばらくが経った今でも続いている。
 男を抱いて何が楽しいのか解らないが、バレットの方は少なくとも未だやめる気がないようだったし、最初に口封じのための写真を撮られてしまったせいで、自分の方からも止めようと言い出すことができないでいた。その街の宿屋に着いてある程度落ち着いたら長くて苦しいキスをされて、それから滅茶苦茶に抱かれる。相手は屈強な男で精力旺盛だ。宿屋に泊まれた日のうちで、行為がない日などなく、宿屋にいる間はずっと続いた。
 幾度となく抱かれているうち、クラウドはどのタイミングでバレットが行為を求めてくるのか解るようになった。そのときは、バレットが部屋に鍵をかけ終えるまで側にいた。すぐキスしやすいようにだ。できるだけ早く終わらせて、消耗した体を休ませたかったというのもあったが、正直なところ自分でも、どうして大人しく従っているのか解らなかった。
 旅の荷物は互いに少ないから、写真なんて探せばすぐに見つかる。いざとなればバレットに魔法でも何でもかけてゆっくり探せばいい。だが、クラウドはそれをしなかった。写真も探さず、捨ててくれと懇願することもなく、ただ抱かれていた。

***

 屋敷から新たな仲間を連れて帰った時はひた隠しにしていたが、食事をすませて部屋に戻ったあたりで限界だった。割れそうなほどに頭が痛くて、気がついたらふらふらと、寝台に倒れ込んでいた。バレットからはいつもの空気を感じていたが、この状態であの荒っぽいセックスでもしようものなら、次の日は起き上がれなくなるのが目に見えている。
「おい」
 案の定不服げな声が聞こえたが、まともな反論はできなかった。そのまま二つ三つやりとりをしたが、それも痛みの波に押し流されて、口に出した端から靄に飲み込まれていくように消えていく。
 もうろうとしていた意識がにわかにはっきりしたのは、着ていた服に手をかけられたその瞬間だった。咄嗟に抵抗してしまったが、痛みで明滅する視界に映ったバレットの顔は、いつも貪っているときのあの雄の顔ではなく、半分は焦り、そして半分は心配の色を浮かべたものだった。
「しねえって。着替えさせてやるってんだよ。どうせしんどくて動けねえんだろ」
 なんとか聞き取れた言葉はそう言っていた。その言葉を信じたクラウドが体から力を抜くと、バレットは片手で器用に服を脱がせ、防具をはずし、そしていつも寝間着代わりにしているバレットのシャツを着せてくれた。父親なだけあるな、と呑気なことを考えていたら、わずかに痛みが治まった。
 だが、着替えたところですべて快調になるわけではない。ずきずきと脈打つ頭を抱えながら、眠るに眠れずうずくまっていたら、ふと背中に大きな温もりが触れた。前に回された腕はバレットの物だ。この期に及んでまだしたいのか、と警戒したが、その警戒に返ってきたのは、穏やかで優しげなリズムだった。
「薬が無ぇ時は、人肌が効くんだってよ」
 クラウドの腕を撫ぜた左手は、そのまま額に当てられた。強引さの感じられない優しい力で、くいとそのまま引き寄せられる。
「そこらで唸られちゃ気になってしょうがねえからな。……それだけだ」
 もう少しましな言い方はないのかという言葉は、喉から出て行く前に消えてしまった。それまで頭蓋を押し上げるほどだった痛みが、僅かずつ、じわじわと治まっていくのがわかったからだ。
 クラウドは、それまでシーツをつかんでいた手を離し、目の前に回されている右腕へ添える。
 もっとほしい。もっと温もりがほしい。
 半ばから先がない腕を胸元に引き寄せ抱きしめたら、困惑の声が挙がった。いままでクラウドの方から、能動的にバレットの体に触るなんて事はしなかったから、突然のことに戸惑っているのだろう。
 だが、言い訳の言葉も何も出てこなかった。出てきたのは、子供じみた言葉だった。
「……あったかい」
 体から力が抜けていく。
 頭痛の波も数分前に比べればだいぶましだ。
 体を包み込む温かさにすべてを委ねて、クラウドはようやく迎えにきた眠気に意識を落としていった。

三度の飯が好き

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です