自機+よそのこ+よそのこ
(シルヴァおじい+ライハくん)
夜中にリンクシェルが鳴った時は、たいてい見知った奴らからだ。そしてその声がさらに特定の奴だった場合、その時点で用件はほぼ決まったも同然である。
呼び出された先はやはり酒場で、中に入った先すぐのカウンターに連絡してきた張本人と、おそらくその通話の目的を見つけた。
「よ、来たぜ」
「悪いね」
「いいって、ちょうど起きてたし」
老人の隣に腰掛けて適当に一杯頼むと、通話をしてきた相手――エレゼンの老紳士の身体の向こう側にいる青年を見る。机に突っ伏してすややかに寝ているあたりからして、今回もやはりそういう用件らしい。
「また?」
「そう、また」
はーやれやれとため息を食後の紅茶らしきカップに落とした老紳士は、ちらりと青年の方を見た。
「何度言ってもこれだ。学習能力なんて欠片もない」
「酒に関してはなー」
本業は一応頭を使う召喚士のくせに、こういうところはさっぱりだ。何度この同居人に口酸っぱく言われても、キャパシティを越えた量を飲んであっさりつぶれて、たまにこうして自分に連絡がくる。一応この老人にも運べるはずなのだが、たぶんめんどくさいとか重いものを持ちたくないとか、迷惑をかけた人間が増えればもう少しはましになってくれるかもしれないとかいう考えがあるのだろう。おそらくは。
「なんでここまでして飲むんだろうなあ」
「さあね。これの頭の中なんてとっちらかってるに決まってるから考えるだけ無駄だと思うが」
「なにげに酷いこと言うなあ」
「飲まないとダメな理由でもあるんでしょ。詳しくは聞いてないがね」
紳士はあっさりとそう言い切ると、また一口紅茶に口をつけた。
「あんま踏み込まないのな」
「なんだね」
「アンタの性格にしてはあっさり線引くんだなって」
なにせ好奇心の塊みたいな性格だ。気になったことはとことん追いかけるようなタイプだと思っていたのに、そこは聞かないんだなあと素直に言うと、紳士は「そりゃそうだよ」と答えた。
「必要最低限のデリカシーはあるつもりだよ」
「意外」
「そこは世辞でも言っておくものだがね?」
「悪い悪い」
「……ま、一応少しは尊重はするよ。ただでさえ覗き見してしまうんだから」
そうね、と同意して再びジョッキを傾ける。
奇しくもお互い、越える力を持つ人間だ。どういう基準かは知らないが、望むと望まないとに限らず、相手の過去を視てしまう時がある。幸いにして深いところまではまだお互いに視ていないが、それでもそこはかとない罪悪感を感じることには変わらない。
一息にジョッキをあけてカウンターに置くと、よっこらしょと立ち上がる。
「で、今日はどっちの家よ」
「ゴブで」
「はいさ。ほらお客さん帰りますよー」
そして、ぐでんぐでんに力の抜けた身体を回収して肩に担いだ。紳士は人間から骨を抜いたなれの果てのような青年の財布から代金を抜き取り苦笑い気味の店主に渡すと、するりと椅子を降りた。相変わらず動作に音がない。
使い込まれた木の床を踏みしめながらついて行くと、ふと扉を開けてくれていた紳士が少しだけ振り返った。スカイブルーの瞳には先ほどのような真剣な色味はなく、いつも見せるいたずらっ子のようなそれが滲んでいる。
「どうせなら泊まっていくかね? いい肉が入ったってこれがほくほくしてたから」
「え、いいの? やったぜ」
うれしい提案に全力で乗りながら、潮風の薫る夜へと繰り出していった。