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自機+よそのこ+よくある朝の話
(ルガネキ+ちょこっとライハくん)

 起きた。
「……よっし」
 窓の光の差し込み具合を確認して勝利を確信すると、隣で寝ている人間を起こさないようにゆっくり起き上がる。結構不穏な頭痛がしたがこれは想定内なので無視し、あくびをしながらロフトを下りた。
 使用人はまだ来ていないようだ。更によっしゃよっしゃと勝利を噛みしめながら風呂場に向かい、シャワーを借りて寝汗を流し、スッキリしたところでキッチンに足を向けた。
 確かここにあった気がする、という予想は悉く正解し、数分後には全ての準備が整っていた。ポットに水を注いでコンロに置き、その間さくさくとパンを切り分けてマーガリンを塗って、洗ったラノシアレタスとチーズをのせる。そして、勝手に置いていた自分のスキレットを取り出して油を引き、じわじわと温まってきたところで、厚めに切ったハムを三切れ放り込んだ。
 肉の焼ける心地のいい音と、食欲をそそる良い匂いに反応したのか、ロフトの上の気配がモゾモゾと動いた。だが動いただけで、こちらまで下りてくることはなかった。今日は睡眠欲が勝ったらしい。
 良い具合に焼き目がついたハムをフライパンから引き上げてぽいぽいとパンにのせると、使用人お手製のトマトソースを拝借する。まんべんなく塗広げ、再びチーズとレタス、そしてパンをかぶせたそのタイミングで、ポットが小さく鳴き出した。我ながら最高の手際である。
 戸棚から取り出したマグカップにティーバッグをそれぞれ放り込んでお湯を注ぎ、お湯が色づく間にスキレットを綺麗にしてしまったら準備完了だ。濃いめに仕上がった紅茶を持ってロフトに上がると、身体を起こして足を下ろしたところで彫像のごとく動きを止めている家主に「ほれ」と差し出した。
「おはよう」
「……ああ」
「飲む?」
「飲む」
「熱いから気つけろよ」
 普段あれだけ動き回っているのに朝だけはこの通りである。
 こればっかりはその人間の性質に大いによるものだからしょうがないとはいえ、普段とのギャップが大変面白い。それに、いつもいつも先手を取られがちなので、こういうときに好き勝手にお返ししてやれるので嫌いではなかった。むしろ大歓迎だ。
「朝飯適当に作っといたから」
「……ありがとう……」
「いいって。いつもの寝床の礼」
「……」
 またスイッチが切れた。ただ寝るまいとはしているのか、レジーの眉間に深めのが寄っている。冬眠から起きたばかりの大型の動物を思わせる動きで渡されたマグカップに口をつけたのを確認し、キッチンに戻って自分の紅茶をズズズと飲み、小さい方のサンドイッチを腹の中におさめてしまうと、机の上にきちんと置かれていた財布やら何やらを回収した。
「じゃまた後でなー」
 洗い物はいつも通り甘えてしまうことにして、依然としてロフトの上から動かない存在感に向けて声をかける。返事はないが、一度起きたらなんとしても目を覚ましてくる彼女のことだからきっと大丈夫だ、と思うことにした。
 重厚感のある扉を開け、潮風の香りが満ちる廊下へ出る。そして出た途端、リンクシェルが聞き慣れた音を発した。
「はいよ」
『よう! 今暇か? 暇だよな? 宝探し行こうぜ!!』
 魔法の巻き貝から飛び出したのは元気いっぱいのアウラの声だ。朝から威勢が良いのは若さなんだろうかと考えながらも「行く」と即答すると通話を切る。宝探しとなとこの前行った地下の宮殿だろう。あそこは確か備品が充実していたから、人前に出られる服さえ着ていれば問題ないはずだ。
 天気も上々だし二日酔いの頭痛も軽くなってきた。これは幸先が良いに違いない。まだ見ぬお宝への期待に胸を膨らませながら、アパルトメントの階段を足取り軽く下りていった。

三度の飯が好き

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