[2019/01/05]レノクラ

考え事をするクラウドちゃん / レノクラ / 文庫ページメーカー

 どうやら奴は、何か考え事をするときには口に手を当てる癖があるらしい。
「……かわいいなお前」
「は?」
 心の中に浮かんだ一言はどうやらそのまま外に出てしまったようだ。レノの私物のタブレットを見ながら何やら考えていたクラウドは、それまでの真剣な表情はどこへやら、一瞬で不機嫌な顔になってしまった。
「は? ってお前、褒めてるんだぞと」
「脈絡がない。怖い」
「怖くないって」
 寝そべっていたソファーから身を起こし、丸まった背中ごと抱きかかえる。機嫌を取るように頬をすりすりと擦り付けたら、クラウドは一瞬だけ不機嫌そうな声を出したものの、特に撥ねのけるようなことはしなかった。
「靴見てんのか?」
 レノの問いに、うん、という素直な答えが返ってくる。
 肩越しに見えたタブレットには男性用の革靴一覧が並んでいた。レノが気に入って使っているブランドだが、革靴を履かないクラウドにとってはなじみの薄いものだ。何でこんなもんを、とすりすりを続けながら聞いたら、クラウドは淡々と「興味」と答えた。
「あんたがいつもどんな靴履いてるのか気になって」
「んな気になることか、と」
「跳んだり跳ねたりしてるのに、そんなにボロボロになってるように見えないから」
 何か特殊な素材でも使っているんだろうかと気になって見てみたら、ついついずっと見てしまったらしい。
「あと、そういうのも一つあった方が良いってリーブに言われたのを思い出した」
「ふーん。じゃあオレの履いてないやつ試しに履いてみるか? 買う前に」
 だが、そこでクラウドはまた黙った。
「なんだよ」
 特に機嫌を損ねるようなことは言ってないはずだ。どうしたどうしたと柔らかい頬をむにむにしていたら、じわじわとその皮膚が熱を持ってきたことに気がついた。
「あんたの、ちょっと大きいから合わない……」
 そしてぼそぼそと付け加えられた一言に、レノは思わず下に目をやった。視線の先では、毛足の長めなラグに、クラウドの白い足とレノの僅かに日に焼けた足が仲良く並んで埋まっている。
「……おまえ結構足ちっちゃいんだな、と」
「うるさいな」
 感想をそのまま口に出したら、今度こそ実力行使の頭突きが飛んできた。だが、それを読み切っていたレノはすっと避けると、抱え込んだ身体をそのまま自分諸共ソファーに倒す。
「おい!」
 まだ見てた――という抗議はそのまま受け流して、心にじわりと広がった感情のままに抱きしめた。
「んーかわいいなやっぱ」
 ついでに口にも出した。
 じたばたと、まるで人に慣れていない猫が抱き上げられたときのように腕の中の身体が暴れ出すがそれも全部押さえ込む。
 離す気がないと理解してくれるまでそう時間はかからなかった。やがて大人しくなったクラウドは、呆れ混じりの溜息を長々と吐き出した後、テーブルの上に取り残されたタブレットを諦める。
「……五分だけだぞ」
「はいよ」
 とりあえず五分な、と付け足したら、「生ビールみたいに言うな」と軽めの頭突きを食らわされた。

三度の飯が好き

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