twitterアンケから 幸せそうな二人 / バレクラ / 文庫ページメーカー
優しく揺り起こされて目を開けたら、そこは一面の星空だった。
「——わ、ぅ?」
「おう、起きたか」
自分の置かれた状況が飲み込めないまま、ただその光景に圧倒されていると、すぐそばから聞き慣れた声が降ってくる。どうやら自分はその声の主に毛布ごと抱えられているらしい。
「すげえだろ。どうしても見せたくてよ、抱えて出てきちまった」
「……起こしてくれてもよかったのに」
「いやあまあ、そうなんだが。サプライズってやつだ」
そういうのもたまには良いだろ、などと照れくさそうに笑うバレットに、クラウドもまたそれもそうかもな、と笑顔を返す。
バレットのトレーラーに配達に行き、狭い寝台で身を寄せ合って寝て、そして次の日にはエッジに戻る——逢瀬にしてはあまりにも短すぎるいつもの一時になるはずだったが、今回ばかりは違ったようだ。
「ここんとこずっと曇っててな、星なんか見えなかったんだが」
「うん」
「晴れてよかった。……ここら辺は特に夜が綺麗で、一回お前に見せたかったんだよ」
バレットの温かい手が頬を撫でる。
「写真じゃどうしてもなあ」
「……うん、わかる、ありがとう」
「へっへ」
掘削用のプラントがわずかに遮る以外、地平線まで続く星の海。丁度月も出ておらず、周りに人家もないような場所だからか、まるで二人きりで浮いているかのようにすら思える。
「……空に溺れそうだ」
「ん、なんだ、怖いか」
「怖くはないよ、あんたがいるし」
いざとなったら引き上げてくれるんだろ、そう言いながら頬を寄せる。髭の感触を楽しみながら擦りよれば、擽ったがる声がした。
「まあなあ、……でもな、一緒に溺れるのも悪かねえぞ」
「あんたと?」
「イヤか?」
「イヤなわけないだろ」
もしかしたら地上にいるよりずっと楽しいかもしれない。見渡す限りの星の海の中で二人きり、泳ぐでもなくただ沈むのはすごく魅力的だ。
クラウドはバレットの腕の中でぼんやりと夜空を見上げながら、思いついたことをふと口に出した。
「……今度の長い休み」
「おう」
「コスタに行こう、みんなで」
「そりゃいいな。……で、溺れるのか?」
「溺れないよ。泳ぐだけだ」
ふつうの海にはさすがに溺れたくない。ただ、あんたが人工呼吸してくれるなら別だけど、と付け加えたら、バレットは「んぐっ」と妙な声を上げた。どうやら、今の一言が変なところに入ったらしい。
「いきなりそういうこと言うんじゃねえよ」
「ついでにマッサージもしてくれるんなら」
「だからよお」
視線がかち合う。
それまで続いていた会話が途切れて、代わりに吐息と、わずかな声が零れる。
「——っ、ん、……べつに、今しなくても良いのに」
「しちゃ駄目って訳じゃねえだろ」
「そうだけど」
「即答かよ」
苦笑いとともにクラウドの体が浮いた。そしてまた、トレーラーの中へと連れ戻される。
見るものが居なくなっても、天を埋める星たちは、ただ思い思いに輝いていた。