[2018/10/26]バツクラ

twitterアンケから ブリーダーめいたクラウドちゃん / バツクラ / 文庫ページメーカー

 バッツを見ていると、無性に何か号令をかけたくなる。
 ——いや、号令というのは言い過ぎかもしれない。軍隊で見るようなそれじゃない、言うなればそう、犬やら何やらにするような命令に近いものだ。一体バッツの何がそうさせるのかは解らないが、たぶん天性の才覚があるに違いない。と、そう思うことにしている。
「バッツ!!」
 そして今日も、俺は単なる思いつきでバッツの名前を呼んだ。少し先で遠くを見ていたバッツは、俺の声にすぐさま反応して駆け戻ってくる。
「おう! なんだ?」
「ゴー!!」
「よっしゃ!!」
 適当に指した方向へ、バッツはまさに風のように走っていく。何をするのかとか、何があるのかとか、そういったことはまるで聞かないし、聞こうともしていない。それがバッツらしいといえばそうなのだが、なんだか簡単に騙されてしまいそうで、少しばかり心配になってしまう。
 バッツの背中は見る見るうちに小さくなり、ある程度まで走っていった後に急停止した。そしてしゃがみこんでなにやらごそごそとしたあとに、今度は見る見るうちに大きくなった。やたらいい笑顔でこちらに手を振っているところからして、どうやら思いがけない収穫があったらしい。
「おかえり」
「ただいま!! 見ろよこれ!!」
 ほら、と目の前に差し出されたのは、綺麗な色をした、手のひらにすっぽりおさまるくらいの青い石だった。ガラスのようにも見えるが、ほんの少しだけ魔力を感じるところからして、おそらくは魔石のなり損ないかなにかの類だろう。そしてバッツ本人は、俺に「行け」と言われたことは綺麗に忘れている。
「おまえの目みたいで綺麗だろ? 誰かに頼んでさ、そろいのアクセ作ってもらおうぜ」
「加工できる奴がいるかどうかはともかく、よくこんなの見つけたな」
 バッツのこの能力には素直に関心しかない。俺にはないものだし、たぶん見つける見つけない以前の問題だ。こんなだだっ広いだけの野原で、そんなものがありそうな場所すらわからない。
 するとバッツはこともなげに言った。
「いやー、結構あるぜ? ……あっほら」
 そして突然しゃがむと、俺の足下を突然ほじくりだした。そして引っ張りだしたのは、今度は綺麗な琥珀色をした鉱石だった。
「あった」
「あった……」
「な? 結構そこらにあるだろ」
「俺にはぜんぜん解らなかった。やっぱりあんた、そういう才能があるんじゃないのか」
 たとえば犬の鼻みたいなヤバ目の嗅覚が。
 するとバッツはにかっと笑った。
「まあそんな気はしてた」
「してたのか」
「一番綺麗なおまえを見つけたからな!」
 そしてその笑顔のまま、俺の顔面を言葉で殴ってきた。
 放られた一言を抱えきれずうつむいてしまったら、当のバッツ本人はまったくもって無自覚だったらしい。目に見えて慌てだした。
「えっ、クラウド、おいクラウド、どうした?」
「……なんでもない」
「なんでもなくないだろ」
「なんでもないから」
「そうは見えないぜ? 大丈夫か? おれ何か変なこと言っちまったか?」
 おろおろと覗き込んでくるバッツの頭に、垂れた犬耳が一瞬見えた。たぶん、こいつの纏っているこの雰囲気そのものが、お手だの待てだの取ってこいだのを言いたくなる理由に違いない。
「……バッツ」
「うん?」
「おすわり」
「? おう」
 すっとバッツがしゃがむ。
 なんの疑いもなく見上げてくるその瞳に、前触れも何もせずに仕返しのキスをする。うぉぁ、という変な声がしたが気にしない。俺はそのまま固まったバッツを置き去りに、適当な方へ走り出す。
「……あっおい待てよ!! 待てって!!」
 案の定後ろから追いかけてくる声は、慌ててはいるもののやたら楽しげだ。
 やっぱり犬だなあなんて思いながら、俺はその声に「いやだね」と返した。

三度の飯が好き

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