[2018/10/11]バツクラ

NTバツクラの雨の日 / バツクラ / 文庫ページメーカー

 異世界のかけらであっても雨は降るらしい。
「あーすっげえ降ってる。こりゃすげえ」
 窓枠を叩く雨粒は量も勢いもかなりのもので、何の支度もせずに外に出たら風邪を引くのは間違いない。勿論支度をしたところで出て行きたくもないが。
「まだここは大丈夫っぽいし、今日一日雨宿りってのはどうだ」
「んん……」
「おい起きろってばクラウド」
 振り返ったベッドの中、珍しく朝が遅かった彼——クラウドは、バッツの呼びかけにようやく布団に潜っていた顔を半分ほど出した。だが、こちらを見たのも一瞬で、すぐにまた布団の中にもぞもぞと戻っていってしまう。
「……え、大丈夫か? 普段はもっと寝起き良くないか、おまえ」
 バッツは窓枠から離れると、布団からちょっとだけでている金髪を撫でてやる。いつもなら、たとえバッツが先に起きたとしても、声をかければすぐにぱっと起き出して活動開始、といったところがあったのに、今日はまるで逆だ。
「昨日しこたまえっちしたからかな」
 熱はないよなあと布団の中に手を滑らせて額を触る。元々の体力が違うのか知らないが、セックスした次の日であっても特に体調を崩さず起きてくる人間の額は、いつもと変わらない温度を伝えてきた。
「変なもん食ったかっていってもなあ、おれのメシだしなあ」
 手でも握ってやろうかとそばに横になり、さらに手を布団の中につっこむ。だが、すぐ近くにあるかと思った手は予想に反してずっと奥、まるで腹を抱え込むような場所にあった。
 その位置にぴんときた。
「……クラウド、ちょっと布団めくるぞ」
 返事も待たずにひっかぶっていた布団をはがす。外気にさらされて少し寒かったのか、適当に見繕った寝間着に身を包んだ身体がきゅっと縮こまったが、それ以外はバッツの予想していたとおりだった。
「おまえ、そっか、雨の日だから——」
 最後まで言うまえに、それまで瞑っていたクラウドの目がうっすらと開く。
 そして、蚊の鳴くような声で「ごめん」と聞こえてきた。
「いや、いいって、こっちこそごめん。久しぶりで忘れてた。隣入って良いか」
 うん、とクラウドが頷いた。バッツはクラウドの、腹を抱え込むようにしているその身体の近くに寄りそうと、ひっぺがした布団をもう一度かける。
 クラウドは雨の日が苦手だということを、今の今まですっかり忘れていた。何でも昔、あのセフィロスにやられた古傷が痛むかららしい。
「朝メシは……無理か。昼までこうしてような」
「……ごめん」
「いいっていいって。あっでもおれが腹下したら同じことしてくれ」
 痛みを感じないようにしているのか、まるで人形のように無表情だった顔がほんの少しだけほころぶ。だがそれもすぐにすとんと抜け落ちてしまう。今日は余程痛いのかもしれない。
「うん、ま、たまにはこういう日があってもいいだろ」
 普段守られてばっかりだから、こういう時は頼ってほしい。
 触れるだけのキスと共にささやくと、すがるように近づいてきた体温を、腕の中に閉じこめた。

三度の飯が好き

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