[2018/09/14]バレクラ

まだくっついてない二人 / バレクラ / 文庫ページメーカー

 起きてすぐ、自分の上に乗っかっていた太い腕を振り落とした。
 かなり乱暴にやってしまったが相手は深く眠っているようで、特に起きるような素振りは見せなかった。ただ短く唸っただけだったのを確認してから、クラウドはベッドを下りる。だるい腰と足を引きずっと洗面所まで行き、素っ裸でそのままバスルームに入ると、半ば乱暴にレバーをひねった。
 一瞬だけ、鏡の中の自分と目が合う。だがそれはすぐに、バスルームに立ち上る湯気で覆い隠されていく。疲労の滲んだ顔も、体中につけられた歯形も鬱血痕も、そして股の間にこびりついたよくわからない体液も、あっという間に白いもやで隠れていった。
 ——このままなにも見えなくなればいいのに。
 そんなくだらない考えが、頭の中をよぎって消えた。
 正直自分でも、なぜこういう関係を続けているのかはわからない。宿屋に入る度、たまに野宿でも、バレットがその気になったら抱かれては女のように喘ぐことは、もはや習慣になりつつあった。
 最初こそは抵抗したが、力と体重の差にあっさり負けてからはそんなことは無意味だと悟り、ただただ早く終わってくれと願い、そして早く終わらせるために相手のお願いも聞くようになった。もちろん、お願いなんて言葉で言い表せるような生やさしい要求ではないが。
 クラウドは自分の体をくまなく洗い、指に触れたぬめりを片っ端から取っていく。今日は確か珍しくゴムを使ってくれたから、後始末が楽でいい——そんなことを考えてから、じゃあこの腹に散ったこれは何なんだ、と顔をしかめた。
 最初は全然気持ちよくなんて無かった。今もたぶん、本当の意味では気持ちよくはない。生理現象と言ってしまえばそれで終いではあるが、それでも、あんな乱暴な抱かれ方をされて達している自分がこのうえなく汚いものであるかのように思えた。
(『尻で達く淫乱』)
 先ほどの行為でぶつけられた言葉を不意に思い出してしまい、クラウドの胸中に厭な感情がじわじわと広がる。防衛本能か何かなんだろうがそういう体になってしまったことと、何よりそうされるくらいならちゃんと抱かれたいと思うようになってしまった自分が、とてつもなく厭だった。
「……ちくしょう」
 入り交じる感情を振り払うように呟くと、乱暴に湯を止める。とたんに空間に満ちていた湯気が引き、鏡の向こうにまた自分の体が現れた。体中に痕を散らした、汚い体が。あの男に抱かれることそのものは厭ではなくなってきつつある、淫らな自分が。
「ちくしょう……」
 叩き割ってやりたい衝動を必死に抑えながら、クラウドはただ俯き、唇を噛みしめた。

三度の飯が好き

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