いちゃこいてるふたり / レノクラ / 文庫ページメーカー
黒い服以外も着たらどうだと言ってみたところ、当のクラウドはきょとんとした顔をした。
「何で」
「何でってお前、いろんな服着てみたくならないのかよ、と」
さすがのレノにだって気に入ったブランドの一つや二つはあるし、気分によって私服を変えたりすることも当然ある。だが、毎度毎度顔を合わせる日は必ずと言っていいほど黒ずくめのクラウドは、レノの問いに対して「別に」と首を振った。
「あんまり思わない」
「もったいねえなあ」
「何で?」
「お前結構見目いいだろ」
「いいのか?」
「いいんだよ、と。だから、色んな服が似合うんじゃねえかなって思って」
もちろんずっと着ている黒だって、まるで最初からクラウドに着せるために誂えたかのように収まりがよく似合っているのだが、正反対の白だってきっと清楚な見た目になるに違いないと踏んでいる。もっと派手なものだって、思いの外ぴったりとはまるかもしれない。
「今のままの素っ裸だって最高だけどな? と」
腕枕をしてやっている手とは反対の手で優しく頬を撫でてやれば、命の色を灯した瞳は気持ちよさそうにうっとりと細められる。
「本当に物好きだな、あんた」
「んんー? オレにとっちゃ、他の奴らのが物好きだぞ、と。お前以外を選んでるんだから」
「……酔ってる?」
「酔ってない」
今日は少しも酒を飲んでいない。昼も晩も一緒に食ったし、それ以外だって一緒にいただろと言ったら、クラウドは「そうだな」とまた笑った。
「珍しく長く一緒に居るから気分がいいんだな」
「そうだなあ、たぶんそうだぞ、と。酔ったとしたらお前に酔ってんだ」
「また調子いいこと言って。何も買わないからな」
「いらねえよ。むしろオレがなんか買ってやりたい」
何しろ今日は機嫌がいい。なんていったって、昨日から今日、そして明日は珍しいオフだ。そしてそれは相手も同じだった。レノの携帯からは電池を抜いたし、クラウドの方だってこの三日間はよほどのことがなければかけてこないでくれと言いおいているから、横槍も心配ない。
レノの部屋に二人きり、邪魔するものはなにもない。こんなに上機嫌になる日は、おそらくしばらくはないだろう。もちろん追加で来てくれる分には大歓迎だが。
唇の端に軽くキスを落とすとくすぐったそうな声が上がった。ただしやめろとも嫌だとも言われなかったので、そのままきつく抱きしめてやる。
「はー、最高だ」
「大げさだな」
「大げさじゃないぞ、と」
滑らかな背中を撫でてやりながら、レノはその耳元に囁く。
「明日買い物に行こう。そんで服買おうな」
うんとオレ好みに染めてやる。
だから覚悟しろよと笑ったら、金の髪の恋人は「楽しみにしてる」と低く甘い声で笑い返した。