無自覚片想い中のバレットさん / バレクラ / 文庫ページメーカー
「冬か?」
突然の一言に驚いたらしい。クラウドはきょとんとした顔をした。
「何が?」
「冬生まれか?」
「何でいきなりそんなことを聞くんだ」
「何だっていいだろ」
少しばかりつっけんどんに返すと、バレットは視線を整備していた得物に戻す。それでクラウドも、彼が口にした話題がそこまで重要なものではない話題と察してくれたらしい。ベッドに横になったまま答えてくれた。
「……違う。夏だ」
「夏か」
「何で冬だと思ったんだ」
「そりゃあお前、……何でだろうな」
口をついて出かけた言葉を濁す。
「なんとなくだ」
「……あんたのなんとなくはアテにならないな」
「るせえ」
吐き捨てながら、部品の点検を終えてがちんがちんと組み込んでいく。そうそう長いつきあいではないがもう慣れたものだ。全て組み込んでしまったら、軽く動作を見てそれでおしまいである。
その手をぼんやりと見ていたクラウドは、半分ほど瞼を閉じて眠そうにしていた。わざわざ起きている必要はない、先に寝ろとは言ったが、組み立てを見ているのが楽しいらしい。銃から目を離さずにおもむろに口を開いた。
「……そういえば、同じこと言われたな」
「冬生まれかって?」
「ああ。……誰だったか、忘れたが」
もぞもぞと布団の下の身体が動いている。どうやら寝良い体勢を探しているようだった。整備用の道具を片づけるまでには恐らく寝入ってしまっているだろう。
「なあ」
「……ん、なんだ」
実際、バレットの問いかけにも反応が遅い。一瞬迷ったが、ええいと思い切り口に出す。
「誕生日教えろ。お前の」
「……」
「……おい」
二度目の問いかけにも返事はない。
こりゃだめかと諦めかけたそのとき、ほとんど目を閉じかけていたクラウドの口が動いた。
「……八月の十一日」
「夏だなあ」
「……うん……」
その一言を最後に、魔晄の瞳が完全に瞼に覆われた。直後に聞こえてきた深い寝息からしてすっかり寝入ってしまったらしい。
「ったく、話してる途中で寝るなってんだ」
バレットは整備した武器を取り外し油を拭うと、使っていた道具を片付ける。どこも汚れていないことを確認してから、洗面台で手を洗う。戻ってきて寝間着に着替えたら、先程までわずかに力が入っていたクラウドの寝相は完全にリラックスしたものになっていた。
バレットは向かいのベッドに腰掛けると、力が抜けてベッドの外に出てしまっていたクラウドの腕をそっと掴み、ベッドの上にのせてやる。手の甲を優しく撫でてやったら、んふ、という普段とは考えられないほど柔らかな笑みが口元に上る。
たまらない、とごく自然に思ってしまった。普段あれだけ無愛想というか、顔の筋肉がまず動いていないのに、まれに無防備な表情を晒すのだ。そういう時、バレットの心の中は言い様がない感情が心の中にじわりじわりと生まれていく。そしてその感情が心の中を占めていくにつれ、バレットはどうしようもなく焦ってしまう。
否、焦るという表現は正しくない。一番近い感情が焦りというだけだ。さっき誕生日を聞いてしまったのもその、不明瞭な感情からくるものだった。思わず追い立てられてしまったのだ。
バレットは鼻から息を抜くと、ぽりぽりと頭を掻く。
「……ま、今から考えたってな」
わからないものがすぐにわかるようになるわけでもない。
そのうち気づくか何かするだろう、そう自分に言い聞かせて、バレットはベッドに潜り込む。
八月十一日か、などと頭の中で繰り返しながら。