フェイタルコーリングのソレ / メビウォルクラ / 文庫ページメーカー
身体を重ねた次の日の朝は、いつも自分が早く起きる。やはり相手の方が負担が大きいのか、それとも単純に朝に弱いだけなのかはまだわかっていないが、今の今まで彼が自分よりも早く起きていた場面に遭遇したことはなかった。
そして今回もそうだった。ウォルが目を覚ましたとき、相手——クラウドは、ウォルの腕の中、胸板に頭を寄せるようにして穏やかな寝息をたてていた。やはり、上に厚めの服を掛けてやっていても洞窟での夜は冷えるのか、体温を求めるかのようにぴたりと寄り添っている。
ウォルは自分の顎先でふわふわと揺れる金髪をそっと指でのけた。現れたのは、普段見せる表情とはほど遠い、想像以上にあどけない表情だ。ウォルに対してはもう完全に気を許しているのか、少しばかり頬をつついても起きる気配はない。
(……白いな)
意外と色が白いというのは前から知っていたが、ウォルの指の色と比べるとその白さがさらに際だつ。今日は特にそうだ。洞窟の薄暗い空間でもそれとわかるほどに白い。
(日焼けもしてない……いや、単純に顔色が悪いのか)
白いと言うよりはむしろ青白いその肌は、明らかに血行の悪さから来ているものだ。数日前の魔晄炉での負傷はもう傷がふさがったとはいえ、今もなおクラウドに苦痛をもたらしている。その痛みを忘れようとして、クラウドはウォルに抱いてくれとせがむのだ——そう、昨晩のように。
起きないことをいいことに、ウォルはその頬に手のひらを滑らせる。耳にかかっていた金髪を後ろに撫でつけたら、そこでふと手が止まった。
(ピアスつけてたのか)
今まで髪に隠れていたし、なによりまじまじと観察したことはなかったので気がつかなかったが、クラウドの耳朶には小さな穴が開いていた。こんな、戦闘や仇敵以外にに興味がないような男がアクセサリーをつけるのかと意外に思いながら、つまんだり、揉んだりしていたら、さすがに煩わしかったのか腕の中の身体が「ん」と小さく唸った。だが、瞼が震えただけでそれ以上は動かない。
(まだ起きない……)
相当深く眠っているらしい。そこまで消耗するようなことはしなかったつもりだが、なんてことを考えながらも耳朶をこねくり回していたら、不意に「おい」という不機嫌そうな声が聞こえた。
「おっと。起きてたか」
「……耳を好きにされて起きない奴がいるか」
「あんた」
「……」
じとりという音すら聞こえてきそうな視線がウォルの瞳を射抜く。悪かったってと手を離して、ご機嫌取りと言わんばかりにキスを一つ落としたら、ますます視線が鋭くなった。
「悪かったって。機嫌直せ」
「……」
「頼むから」
両手で顔を挟んで至る所にキスをする。何回目かの瞼へのキスで、ようやくクラウドは笑いともため息ともつかないような吐息を漏らした。
「しょうがないな」
「ご機嫌になったか?」
「まだだ。俺はそんなに安くない」
「何をすればいい?」
「決まってるだろ」
クラウドの白い手が、両頬に添えたウォルの手を絡め取る。そして地面に敷いた上着に押しつけると、まるで猫のように滑らかな動きでウォルの上にのし掛かった。
「身体で払え」
「強欲だな」
「安眠を妨害した当然の対価だ。これに懲りたら二度とするなよ」
「さあ、どうだか。そもそも懲りないかもしれない」
「ひねくれ者」
に、とクラウドが猫めいた笑みを浮かべる。
どっちがひねくれ者だという心からの台詞は、互いの口の中に溶けて消えた。