[2018/08/17]レノクラ

ギャップで落としてくるレノさん最高 / レノクラ / 文庫ページメーカー

 レノは思いの外几帳面だ。
 ああいうナリをしているくせにDVDの棚はアルファベット順だし、ゴーグルもちゃんと手入れしている。一度だけ見せてくれた銃器類を詰め込んでいる棚の中も口径ごとに銃弾の箱が並べられていた。部屋の中だって、確かに服が脱ぎ捨てられたり雑誌が放置されていたりはするものの、荒れ放題というわけではない。むしろ、家具や服以外の小物は驚くほど少ない。見ようによっては程良く生活感のある部屋だ。
「まあな。それなりにやるんだぞ、と」
 それをそのまま伝えたら、両手に皿を持ったレノはにやりと唇の端をつりあげた。
「ギャップでオトす男だからなオレは。ほい」
「ありがとう」
 目の前にどんと置かれたのは具沢山のナポリタンだった。それも冷凍食品ではない、レノが野菜を切りパスタを茹で炒めて作ったものである。
「……ずるい」
「あ?」
「なんでもない」
 口からぽろりとこぼれ出た言葉を打ち消し、いただきますと手を合わせる。鮮やかなケチャップの赤にピーマンの緑、そしてタマネギの透き通った白。色とりどりのそれらを全部絡め取りフォークで巻いて口に運んだ。
「どうよ」
「……おいしい」
「よっしゃ、やったぜ。いただきます」
 先ほどまでフライパンを振っていた手が、滑らかに銀色の食器を操る。クラウドとはまた違う、細くて骨ばった器用な手をぼーっと見ていたら、その視線に気づいたらしいレノが「おい」と笑った。
「なにしてんだ。さっさと食え、冷めちまうぞと」
「うん」
「オレの手がそんなに気になるか」
「……」
 ぱっと開いた手から目を反らす。確かに気になるが素直に認めたくはなかった。癪だというのもあるし、それに認めたら絶対この男は調子に乗る。
「……ほぉー?」
 ほらみたことか。
 何も言わずとも態度に出てしまっていたらしい。いらないことまで察したレノは、狐のように心底楽しそうな、かつ意地の悪い笑顔を浮かべてずいとクラウドの顔を覗き込んできた。
「好きなんだな」
「……うるさいな」
「照れちゃって、かぁーわいい」
「やめろ」
 鼻を掴んでくる手を退けてナポリタンに目を落とす。冷めるぞと言ったくせに邪魔してくるなと何口目かのスパゲティを巻くと、にっへへ、という変な笑い声が聞こえた。
「そうかそうか、手が好きかぁ」
「……なんだよ、好きだと悪いのか」
「いいや?」
 愉しさを抑え切れていないその口元がスパゲティを飲み込む。何度か咀嚼し飲み込んだ後、真っ赤な舌がべろりと口の周りを舐めていく。
「後でたくさん触ってやる」
 瞬きが終わったそのとたん、まるで子供のように嬉しさを滲ませていた口元は、よからぬ含みを持たせた大人のそれになっていた。思わず息を詰まらせたクラウドを見て、レノはまた喉の奥で笑う。
「楽しみにしとけよと」
「誰がするか」
「嘘こけ、耳真っ赤だぞオマエ」
 うるさいという反論の代わりに、クラウドは伸びてきた手を容赦なくはたき落とした。

三度の飯が好き

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