[2018/08/14]バツクラ

いちゃこいてる / バツクラ / 文庫ページメーカー

 呼ばれて振り向いたらすぐ目の前に顔があった。
「——っ」
 とっさに目をつむることも拒否することもできず、クラウドは不意打ちをかましてきたバッツに唇を塞がれた。頭の中が真っ白になって抵抗も何も一瞬忘れてしまったのを良いことに、バッツは自分が満足するまでクラウドの中を存分に味わうと、そのまま体重をかけてくる。
「っん、まっ、待った、バッツ」
「なに?」
 あまりの唐突さにびっくりして、その広い胸板を両手でやんわりと押し返したところ、押し倒してくるのはやめてくれた。だが、頬にも唇にも啄むようなキスを降らしてくるのは変わらない。くすぐったくて話にならんと手で塞いだら、手首をとって手のひらに口づけてくる始末だ。
「っ」
「んー、クラウド、おまえほんっといいなあ」
「バッツ、バッツどうした? 何かあったか?」
「何もないぞ」
「嘘つけ」
 いつもはもう少し話を聞くし、「していい?」という一言くらいはあったはずだ。それなのに今日のバッツはこれである。移動に移動を重ねすぎて疲れて頭が沸騰しているのだろうか。だがそれにしてはさっきまで話が通じていたし、性欲モンスターになったというわけではなさそうである。
「あんた、いつもより急ぎすぎだろ」
「そうか?」
「そうだ」
 なおもキスしてこようとするバッツの顔を両手で挟み、その瞳を覗き込む。確かにいたって冷静、いや少し熱を帯びてはいるものの、ねじが吹っ飛ぶほど浮かされてはいない。
「俺でよかったら話を聞くが。……しばらく俺しかいないが」
「クラウド……」
 バッツの口元がゆるんだ。まるで猫か何かのようにへにょへにょとした形になってしまった口は、クラウドの名前を呼ぶとさらにへにょへにょになってしまう。
「クラウド、おまえさあ、かわいいなあ」
 へにょった口元はそう言った。
「びっくりさせたのはごめんな。でもちょっと我慢できなくてさ」
「何もしてないだろ」
「何もしてない。でもなんかクラウドのこと抱きたくなったっていうか、なに、全力で愛したくなったっていうか、……ああもういいなあーって思うときがあるんだよおれには」
「……そういうものなのか?」
 そういうものだよ、とバッツはまた笑った。そして、顔を挟んでいるクラウドの両手に己の手を重ねてくる。
「さっきのは、いいなあー、って思ったのがいきなり爆発しちまった。ごめんな」
「……そうか、うん、何か変なもの食べてないならいい」
「してもいい?」
「いいよ。でも次からは、できればでいいから、ちゃんと言ってくれ」
「わかった。ごめんな」
 今度は素直に押し倒されながらも、クラウドは視界に広がるバッツの顔を見る。先ほどまでの、覇気がまるでない表情とはまた違う雄の性を宿したそれに、身体の芯がぞくりと疼いた。器用に動く手に暴かれていくうち、否応なく自分の熱も高まっていく。
「バッツ、あんたほんと俺のこと好きだな」
「うん、超好き。愛してる」
「……そうか、うん。俺も」
 ぎゅっと変な音を立てた心臓を紛らわせるようにバッツの背中に手を回す。
 ——きっとこれが、彼の言っていたことなのだろう。
 仕事を放棄しそうな口元を叱咤しながら、クラウドはただ押し寄せてくる波に流されるがまま身体を委ねた。

三度の飯が好き

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