スーツでポン刀提げたクラウドちゃんが見たい / レノクラ / 文庫ページメーカー
「やっぱお前、何でも似合うなあ」
口をついて出たレノの第一声はそれだった。思わず言ってしまう程度には、少し苛立ちの混じった動作でカフスボタンを留めながら扉から出てきた青年は、本人にその気がないくせに、その服をおそろしく着こなしていた。
「やっぱり黒とかそっちの色が似合うんかね。眼福眼福、この仕事受けて正解だぞと」
「……俺は正解じゃない。動きづらいし、暑い」
「まあまあそう言いなさんな。すぐ終わらせちまえば良いんだから、な? 新入りタークスくん」
「うるさい」
わざとらしく付け加えた最後の一言に、相手は露骨に気分を害した顔をした。チッという舌打ちすら聞こえる。
「フリだ」
「わかってるって。冗談だぞ、と」
ほれ、と瞳を隠すためのサングラスを渡す。半ばひったくるようにして取っていったクラウドは無言でそれをつけると、デスクに置いていた刀を手に取った。専用のベルトに提げ、革のグローブを点けてしまうと、ダークスーツに身を包んだタークスのできあがりである。
あまりの出来の良さに思わずひゅうと口笛を吹いたら、昏い色をしたプラスチックの奥の瞳がじろりとレノを睨めつける。
「……笑いたいなら笑えよ」
「いやあ違うって、マジですげえなって思ったんだぞ、と。化けるねえ」
「……」
大きな溜息にさらなる苛立ちが滲む。
だが、これ以上何か言うのも無駄な労力だと判断したのか、刺々しい言葉は出てこず、呆れのこもった視線もふいと逸らされた。そしてすたすたと勝手に出口に歩いて行ってしまったので、慌てて後を追いかける。
「話はもう聞いてるんだよな」
並んで歩きながら声をかけたら、青い瞳がちらとレノを見上げる。だがそれも一瞬のことですぐに前に戻された。
「何も喋らなくて立ってる。で、あんた達が危なくなったら叩く」
「上出来。……ただまあ、もう一つ足りねえな」
「は? 何だよ」
怪訝そうな声とともに今度は顔ごとレノの方を向いた。ようやくこっちを見てくれたと笑いながら、レノは懐から煙草を取り出し咥える。普段は仕事中になんて吸わないのだが、今回ばかりは事が事だ。こちらには余裕があると言うことを示すギミックは、多いに越したことはない。
火を点け紫煙を思い切り吸い込み、レノは答える。
「終わったらホテルでセックスする。その格好のままで」
途端、まるで容赦ない肘打ちがレノの脇腹を抉り抜き、出したばかりの煙草はあえなく地面に墜落した。