[2018/07/31]レノクラ

ケツに顔突っ込むレノさん / レノクラ / 文庫ページメーカー

 突然、もふんと尻に何かが突っ込んできた。
「……」
 それまで適当に拾い上げた雑誌をベッドに寝そべったまま読んでいたクラウドは、突然の衝撃に思わず顔を上げて後ろを振り向いた。
「……レノ?」
「んー」
 うつ伏せになったクラウドのその尻に突っ込んできていたのはレノの顔だった。一体何を考えているのやら、彼はクラウドの尻の割れ目に顔を埋め、かつその両手でがっしりと腰を掴んでいる。断固として離すまいという強い意志を感じ、無理に引き剥がすと面倒なことになりそうだと判断してそっとすることにしたが、それにしたって唐突すぎる。
「あー」
 突っ込んでしばらく、赤いもさもさはそんな音を発した。そして、腰を掴んでいた両手をおもむろに尻の肉に食い込ませて割り開くようにすると、そこでようやく顔を上げる。
「最高だわこれ」
「どうしたんだ一体」
「小せえもんなあ、そりゃあ締まりも良いわ」
「……どうしたんだ一体?」
 人語を話したので人語が通じるかと思ったが、その予想はあえなく外れた。クラウドの問いかけをまるで無視したレノは、少しだけ覇気の欠けた、しかし真剣な顔でクラウドの尻をじっと見つめながら、もみもみと一心不乱に揉んでいる。
 どうも今日は相当に疲れているらしい、とクラウドはその様子を見て思った。帰ってくるなりソファーに腰掛け、尻を揉み出すまで機能停止していたから、好意的に解釈するならばきっと理性や知性というものが疲労ですり減っているのだろう。タークスの仕事は神羅カンパニーが事実上なくなったとしても——いや無くなったせいで数々の庶務が発生しているのか——かなり忙しくてしかも疲れるものが多いらしい、と以前リーブから聞いた。
 しょうがない、好きにさせよう。
 クラウドは心中でそう結論づけると、視線をまた雑誌に戻す。こういう直接的、かつ意味のわからないスキンシップを唐突に取ってくるときは、逆にそっち方向に流れることはあまりない。むしろ飽きるまで好きにさせるのが一番その後の落ち着きも寝入りも早いのだ。
「あー尻枕、最高尻枕」
「硬くないのか」
「硬くないぞと。うまい筋肉の付き方したよなあお前」
「変な褒め言葉だな」
「このまま寝るかもしんねえ」
「それはちょっと困る。眠くなったらちゃんと寝てくれ」
「うーい」
 再びもふんという感触が尻に伝わる。また顔を埋めたらしい。
 だが、先程とは違ってレノはすぐに顔を上げた。尻が軽くなり、ぎしぎしとベッドが軋む。やがて、今度は全身に暖かくて重たい感触が覆い被さってきた。
「クラウドぉ」
 さっきよりもずっと近くで、甘えた低い囁きが耳を掠めた。
 ぞくぞくと背筋にやわらかい電流のような感覚がはしったが、気取られないよう平静を保ちつつ、首元にすりついてくる頭をよしよしと撫でてやる。
「何読んでんだよ、と」
「っん、……雑誌。あんたの」
 ——先程の予想に反して、レノはそういう方向にスイッチが入ったらしい。うなじや耳たぶを軽く噛んだり、キスしてたりという軽いじゃれ合いに思わず息を詰めながら、クラウドは続ける。
「あんたの秘蔵のやつ」
「オレの秘蔵の? マジかー、……ってマジか!?」
 途端、がばと背中の熱が勢いよく離れた。大いに狼狽えた挙動の両手が視界に侵入してくると、あっという間に雑誌を——肌色がだいぶ多い雑誌をかっさらっていく。
「マジだ……」
「放り出されてた」
「マジか」
「ブルネットが好みなんだな」
 つい意地悪く、先程までの誌面の内容を口に出したら、普段あまり動揺をあらわにしないレノが珍しく「いやだからその」と弁明を始めた。
「こいつはたまたま特集で、普段は金髪が多くてってっていうか、最近は全然、いや昨日ちょうど掃除してたんだぞ、と!」
 どうやら本気で慌てているらしい。
 あれほど余裕たっぷりな大人(実際年上ではあるが)として振る舞っているレノが、ここまで狼狽え必死にしている様子を見られようなどとは思っても見なかった。クラウド本人としては男の性はどうしようもないし、浮気をしない限りは特に不問と思っていたのだが、レノの中ではどうも違うらしい。
 ——こりゃ面白い。
 クラウドは敢えてレノの弁解には何も反応せず、努めて無表情を保ったまま黙ってその表情の移り変わりを眺める。どんどん焦りの表情が濃くなり、次第には雨の中捨てられた犬のような表情になったところで、どうにも我慢できずに吹き出してしまった。
「くっ、ふふ、あんた、その顔やっぱり卑怯だ」
「は?」
「そんな顔されたら怒るも何もないだろ。元から怒ってないけど」
「へ、……怒ってねえの?」
 怒ってないよ、と繰り返すと、いよいよもって悲壮だったレノの顔は、一拍おいてみるみるうちに安堵の表情に塗り替えられていく。
「なんだよぉびっくりさせんなよぉ」
「ごめん。ちょっとからかってみたくなった。ほら」
 おいで、と仰向けになり両腕を伸ばせば、赤毛の犬が遠慮無く飛び込んでくる。よしよしグッボーイと背中や後ろ頭を撫でてやれば、くぅーん、なんてふざけた鳴き声が返ってきた。だが、その手つきや吐息には明らかな熱が籠もっていて、彼がじわじわと良い子の皮を脱ぎ捨てつつあることを示していた。
「したい。いいか」
「いいよ」
 そんな短い言葉の投げ合いだけで、二人の空気が切り替わる。縋るようだった目は獲物を前にした獣のそれに、じゃれるだけだった口付けは呼吸を根こそぎ奪うものになる。このギャップが、変貌が、クラウドにはたまらない。
 骨張った手が身体を暴いていくに任せ、クラウドは快楽の波に呑まれていった。

三度の飯が好き

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