マシュマロリクエストよりふわふわした二人 / リブクラ / 文庫ページメーカー
「クラウドさん、どうですか?」
「もうちょっと」
「はーい」
先ほどと同じく、視線も寄越さず返された言葉にリーブは素直に返事をすると、腕の中の荷物を抱え直した。久々に休みが合ったからどこかに行こう、とエッジに新しくできた商店街に来て(もちろんリーブは少し変装している)、自分のものだったり二人のものだったりクラウドのものだったりを買ったは良かった。
最後に立ち寄った店がアクセサリーショップで、クラウドが好きそうなシルバー系やミスリル系のものが揃っていたため、普段おねだりなどしないクラウドにおねだりされる良いチャンス――と思ったのだが、肝心のクラウドが先ほどから商品を見たまま動かない。ちらちらと様子を見てみたところ、どうやら真剣に選んでいるようで、いくつか手にとってはじっと見たりなどしているようだった。
凝り性なのかもしれない、とリーブは思った。確かにフェンリルのことになると一日中だってガレージの中にいるとティファが言っていたし、普段あまり自分を飾らないクラウドは、もしかすると自分を飾るものに関しては並々ならぬ拘りを持っていて、ゆえにアクセサリーがそう多くない——のかもしれない。
だが、そろそろ荷物を持った手が痛い。ほとんどリーブがクラウドにとほいほい買ったものだったが、さっきまでクラウドが持ってくれていた分も引き受けているから、四十路手前のインドア系には長時間抱えているのはキツい重量である。
「あのクラウドさん、ボク手が」
「決まった」
「あのクラウドさん」
ちょっとまってボクが出しますからという言葉はその荷物に邪魔をされて結局言えなかった。言い切る前にクラウドはさっさとレジに行き、リーブが狭い店内を何とか通って追いついた頃には、クラウドの手には紙袋がちょこんと乗っていた。
「お待たせ。ごめん、重かっただろ」
「まあはい、ちょっと重かったですけど」
「外でもらっていいか」
「それはもちろん」
狭い中で荷物をやりとりしては店の迷惑になってしまう。リーブはクラウドについて店を出ると、出入りの邪魔にならないように少し扉から離れた。
「あのクラウドさん、荷物——」
だが、リーブの言葉はまたも途中で遮られた。
「ちょっと動くな」
「ひぇ」
クラウドの手が突然リーブの頬に触れた。予期せぬ感触にどきどきと心臓がらしくない音を立てる。しかもその手は、リーブの耳にそっと触れてきた。まさかこんなところでクラウドさんのイチャつきスイッチが、でも荷物どないしよ、いやいやその前にここ道路やあかんとぐるぐる回る思考のまま硬直していたら、不意に手とは違う硬質ななにかが触れてさらに驚く羽目になった。
「ひゃええ」
「悪い、……これでよし」
それまで横でなにやらしていたクラウドが離れる。そしていよいよもって限界だった腕からひょいひょいと荷物をとってくれた。
「持たせっぱなしでごめん」
「いやいいんですよ、……じゃなくてクラウドさん何したんですか?」
「耳、見てみろ」
店のショーウィンドウを指され、リーブは言われたとおり先ほどクラウドがいじっていた自分の耳を見る。
辛うじて映っていた自分の耳には——
「イヤーカフ。あんたに似合いそうだなって思ったんだけど、……駄目だったら外していいから」
「だめなわけないでしょ!」
途中から自信をなくして少し俯いたクラウドに、リーブは食い気味で否定した。きょとんと見上げてくる彼に慌てて言い直す。
「ぜんぜん駄目じゃないですから。クラウドさんがあんな真剣に選んでくれたのに、……もう、駄目な訳ないじゃないですかもう」
選んでいたときのクラウドの真剣な目を思い出してしまい、リーブは自分でも顔が赤くなっているのがわかった。この子は自分のためにあんなに時間をかけて選んでくれていたのかと思うと、愛しさやらなにやらが一緒くたになって外に溢れ出しそうだ。
あああかん、顔真っ赤や恥ずかしい、ちゃっちゃと帰りましょうとクラウドを促し先に歩き出す。これはもう早く帰って全力でお礼をしなければならない。だが、その足はクラウドに呼び止められた。
「リーブちょっと」
「なんですクラウドさん、顔赤いのは承知の上ですからもう言わんといてください」
「違うリーブ、そっち逆だ」
「……あっ」
結局、リーブの顔は帰るまでずっと赤いままだった。