このあとクラウドちゃんがサンドされて寝る / バレクラ / 文庫ページメーカー
クラウドは眠くなるとそこらで寝だす癖がある。
正確には、そこらで寝ようとしてクッションになるものを探しだす。あまり表情の差分がないため、気づいたら体を預けるのにふさわしい柔らかくて暖かいクッションを探しており、そして掴まれた時にはもう遅い。そのままのしかかられるか、押し倒されるかし、結果身動きが取れない状態になる。
ナナキは眠たそうなクラウドを見たら真っ先に近くに行くようにしていた。クッション役として捕獲されても一番被害が少ないというか、「どうということはない」体勢になれるからだ。それに、ナナキは寝ているクラウドを見ているのが好きだった。仲間のみんなをぐいぐい引っ張って行くクラウドが、自分に体も何もかもを預けて寝ている様は、ナナキにとってちょっとした優越感だった。
そして今日もクラウドは眠そうだった。普段よりも少しだけ目が開いていない状態で、何をするでもなくぼーっとし始めたら、それはもう眠いという合図だ。ナナキはそれまで寝そべっていたところから腰をあげると、クラウドが座っているソファーに乗り、のしっと後ろに割り込んで座った。すると、クラウドはいつものように、何を言うこともなくずるずると体を預けてきた。
金髪が朱い毛に埋まり、暖炉の前に投げ出されていた両足がソファーの上に完全に乗り、そしてややあって規則正しい呼吸の音が聞こえだす。無防備な頬をべろりと一回舐めて、ナナキもまたうとうとと目を閉じる。
「——あ? おいクラウド、そこで寝るなよ」
だが、しばらくして聞こえてきた声にぴくりとナナキの耳が動いた。
のそりと顔を上げると、背もたれ越しに覗きこんっでいたのはバレットだった。ちょうど風呂から帰ってきたばかりという格好で首にタオルをかけている。
「またナナキ枕にして。寝るならちゃんと寝ろ」
「でもバレット、もう寝ちゃってるよ」
自分もいるし暖炉もあるから、このままでいいんじゃないか——という意味も込めて言ってみたがしかし、バレットは「しょうがねえなあ」とため息をつくと、ソファーの前に回り込んできた。
「おら、こっち来いほら」
バレットはよっこいしょとクラウドを抱え上げると、義手も外しているのに慣れた手つきで力の抜けた身体をホールドした。クラウドもクラウドで一瞬嫌がるようなそぶりを見せたものの、バレットの首元のタオルを掴んでまたすうすうと落ち着いた寝息を立て始める。
しょうがない、とナナキはまた上げていた顔を伏せた。だってバレットはナナキよりもずっとクラウドとの付き合いが長いし、様子を見ていてもナナキと同じくらい、いやもしかするとそれ以上心を許している様子が伝わってくる。それになにより今日同じ部屋なのはバレットなのだ、ちょっとだけ羨ましいが迎えにくるのは当然のことだ。
ふんすと鼻から息を抜き、ナナキはまた目を閉じる。
しかし、彼の耳はまた自分の名前を呼ぶ声にぴくりと反応することになった。
「お前も来いよ」
「え? ……うん!」
ナナキは軽やかにソファーを下りると、バレットに並び歩き出す。抱えたクラウドは完全に夢の中のようで全く動く気配はない。本当に深く眠ってしまっているようだった。
「明日起こすの手伝えよ」
「クラウド、起きないの? キャンプの時は普通に起きてるけど」
「寝落ちした次の日は寝起きめちゃくちゃ悪いんだよ」
「へえ。わかった、手伝うよ」
「噛まれねえようにな」
「そこまでなの!?」
わうわうと吠えながらも、ナナキはドアノブに前脚をかけ、うまく扉を開ける。
バレットに続いて部屋に入ると、今度は後ろ脚でぱたんと閉めた。
——翌朝、流石に噛まれはしなかったものの、「あと五分」が五回ほど続き結局バレットの大声に起こされることになったのは、また別の話である。