コトの途中で水分補給してほしい / レノクラ / 文庫ページメーカー
「オマエさ、サマになるよな、と」
心のなかにふと浮かんだ一言をそのまま口に出したら、相手はきょとんとした視線を寄越してきた。いったい何を言ってるんだと言いたげな碧の瞳にニヤとわらいかけ、レノは「それだよそれ」と指をさす。
「それ。飲み物。ボトル」
「……っああ、これか? どこが?」
「オマエが飲むとCMっぽい」
「なんだそれ」
クラウドはよくわからないといった顔でまたボトルに口を付ける。クリアボトルの中にこぽこぽと小気味の良い音をたてながら控え目な泡が生まれ、そして消えていくたび、部屋の灯りをきらきらと反射して目に映えた。
やっぱり様になる、とレノは思った。全体の色合いなのかそれとも纏う雰囲気なのかはわからないが、クラウドはやたらと涼しげなモノが似合うのだ。今飲んでいる清涼飲料水だけではない、プールだったり海だったり雪山だったり、とにかく冷たい、寒い、涼しいと感じさせるようなものは悉く似合う。
「マジでCM出たらいいんじゃないか、と」
「いやだよ、恥ずかしい。そういうのは向いてない」
飲み終わったのか、クラウドの手がキャップをひょいとつまみ上げた。きゅ、と閉めるその動作すら、レノの目には何かのワンシーンに見える。
「俺は目立ちたくない」
「穏やかに生きたいってか?」
「うん」
「残念ながら、そのナリじゃ無理だぞと」
レノは戻ってきたクラウドに手を伸ばして引き寄せ、先程まで二人分の体重を受け止めていたベッドの上に再び引き倒した。
「オレがまず穏やかにならないからな」
シーツの海に横たえられた裸体には、そこら中に先程までの行為の痕が散っていた。もちろんレノとのだ。キスマークなんて序の口で、中には歯型や手の痕まである。
綺麗なモノが似合うくせに、こういった厭らしいものも似合うんだからますますたちが悪い。さらに付けた張本人には背徳感のおまけ付きだ。
レノはべろりとその長い舌で首もとの歯型を舐め上げる。途端、組み敷いた身体が少し震えた。
「続きしようぜ」
「何回するんだよ……」
「そりゃあもちろん、オレが満足するまでだぞと。水分採ったしまだイケるだろ、な?」
「……盛りのついた犬か」
「そのセリフそのまま返すぞ、と」
ほんの僅かだが反応していたそこの周りを軽く撫でてやれば、そのナリからは想像もつかないほどに甘く掠れた声が上がる。そのまま愛撫を続けてやれば、彼の手がレノの背中に回った。
「……わかったよ、もう、好きなだけしろよ」
「当然、そのつもりだぞと」
いただきますという言葉の代わりに、レノはその薄く開いた唇に噛みつく。
舌に広がる柑橘系は、酷く熟れた味をしていた。