現パロ / バツクラ / 文庫ページメーカー
「なあ、今日はお前のこと乱暴に抱いてみていいか」
突然そんなことを言われ、クラウドは髪を拭いていた状態でしばらく固まってしまった。
「……どうしたいきなり」
「だから、乱暴に抱きたい」
「いやだから、……いい、わかった、何も聞かない」
どうせティーダか誰かの家でそういうAVでも見せられたか見たかしたのだろう。そしてそういうことをしてみたくなったと、そういうことに違いない。実際今までにも何度かあった。
幸いにして明日の仕事は特にないし、オフにしようとしていたところだ。だから「いいよ」と答えたら、バッツは途端にぱあっと顔を明るくした。乱暴にするとか言っているのにその顔は正直気が抜けてしょうがないのだが、よく言えばギャップが楽しめるということだ。言及も追及もせず、クラウドはタオルをベッドサイドの洗濯物入れに放り込む。
——ただ、無条件にはいというのはおもしろくない。
「一つ条件だしていいか」
「ん、なんだ?」
早速ベッドに上がり込んできたバッツはもう待ちきれないといった様子だったが(これがまたご飯を目の前にした犬か何かのようで正直可愛い)、それでも押し倒す直前で止まってくれた。グッボーイと心のなかで呟きながら、ワンルームの向こう側に鎮座する冷蔵庫に一瞬視線を向ける。
「アイスくれ。冷凍庫の高いアイス。くれるなら何してもいい」
酒でも飲もうかと思って冷凍庫を漁っていたら偶然見つけたカップアイスは、クラウドが買ってきたものではなかった。一つあたり二百ギルを超えるようなアイスはよほどのことがない限り買わないし、何よりあの味はバッツの好物だった気がする。リクエストに応えてやるんだからそれくらいもらってもいいはずだ。
だがバッツは「えっ」と言った。
「えって、なんだ」
「アイスか?」
「惜しくなったか?」
よほど楽しみにしていたのだろうか。じゃあもう少しハードルが低いものでもいいと言ったら、バッツは「違う」と首を振った。
「違う?」
「だっておまえ、アイスだろ。そんなんでそんなこと言っちゃダメだって」
「……は?」
「もっと自分を大事にしろよ。さすがにおれ、アイスでおまえにそんな酷いことできないって」
いやそもそも最初はアイスも何もなかっただろ、それに何するつもりだったんだ――なんていう尤もな意見はあっさりとバッツに塞がれた。いつもよりもうんと優しげなキスをしながら、これまたいつもよりもずいぶんと柔らかい動作でベッドに押し倒される。
「乱暴にするのはやっぱナシ」
「ナシでいいのか」
「いい。優しく抱きたい」
「それならそれで構わないが……」
久し振りに獰猛なバッツが見られると思ったのに少し残念だ。
でも、ほんの少しだけ——いや正直言うとかなり嬉しい。自然と頬がゆるんでしまいそうになるのは、きっと気のせいではないだろう。
「……バッツ」
「うん」
「……いやなんでもない」
「なんだよー気になるだろ」
「後で言うから。終わったらな」
——あんただから特別なんだ、他の誰にも言うもんか。
終わったあとにそう言ってやったら、こいつはどんな顔をするんだろうか。
惜しみなく降り注いでくるキスと愛撫を受け止めながら、クラウドはバッツの広い背中に手を回した。