[2018/07/10]リブクラ

リーブさんの匂いが好きなクラウドちゃん / リブクラ / 文庫ページメーカー

 彼を見ていると、イヌ科っぽいなあ、と思うことが多々ある。
 仲の良い人には実に素直なところとか、まじめな顔をしてはしゃいだりするところとか、嬉しかったり楽しかったりするとどうしても態度や空気に出てしまうところとか、転じて有事の際には獰猛になるところとか、挙げればきりがないのだが、今まさにリーブを押し倒しながらすんすん匂いを嗅いでいるその様子がイヌ科そのものだ。
 突然押し倒されたものだから、珍しくクラウドさんから誘ってくれているのだろうかと思ったが、直後のキスはごく自然に手で防がれてのすんすんである。もしかして本当に中身が犬になってしまったのだろうかと、一房だけ垂れている金髪をすくい上げたら、「もう少し」という人間の言葉が聞こえてきた。
「もう少しとは」
「リーブの匂い嗅いでる」
「それは見ればわかるんですけども」
 そろそろ我慢の限界ですと頬に手を添えたら、ようやく綺麗な碧がこちらを向いた。そのまま引き寄せ軽くキスをする。
「なんですか、そんなに臭います?」
 一応気をつけてはいるんですけどね、となだらかな曲線を描く背中に手を滑らせ、その腰を抱える。
 四十路前とはいえ確かに加齢臭が気にかかる頃だ。もしそんな臭いがするならひと思いに言ってくださいと言ったら、完全にくつろぎ始めたクラウドは、「そんな臭いじゃないよ」と笑った。
「それにこれが加齢臭だったらむしろ大歓迎だ。早くリーブと同じ年になりたいぐらいだな」
「えーそこまで? ボクそんなにいい匂いします?」
「いい匂いってわけでもないけど」
「あ、そうなんですか……」
 端的な言葉に少し落ち込んだ。
「ちょっと傷つきますね、それ」
「大丈夫、変な臭いでもないから」
 すると、クラウドはまた笑った。
「なんだろう、ずっと嗅いでいたいというか、俺の側に置いておきたいというか、あれば安心というか——ん、なんだ、リーブ、どうした?」
 恐らくは突然力のこもったリーブの手に反応したのだろう、クラウドが身体を起こそうとする。だがリーブはそれを許さず、ぐいとその身体を自分に引き寄せ、肩口に頭を埋める。
「もー、クラウドさん、そんな冷静にぽんぽん爆弾投げんといてください」
「え、なんだ、リーブあんた泣いてるのか? 大丈夫か?」
「泣いてないです」
「鼻声で何言ってるんだ。本当に大丈夫か? ずいぶん涙もろくなった」
「だってクラウドさんがかわいいから」
「何でそれで泣くんだ」
「お仕置きです」
「何でそれでそうなるんだ」
 不穏な空気を察したのか、それまで加減して抵抗していたらしいクラウドが少し強めに身体を引き剥がしにかかる。だがリーブはそれを許さず、逆にぐるんと横に倒すと、そのまま覆い被さった。
 ——本当に躾のなっていない犬である。ここまで可愛らしくあれと躾たつもりなんてない。
「だからお仕置きです」
「いやいつになく強気だな……」
「されたくないんですか? お仕置き」
 形の良い唇を食む。歯列をなぞり、うすく開いた歯列のその奥まで舌で掻き回してやれば、リーブの愛しい飼い犬は、先ほどまで好奇心で煌めいていた宝石に淫蕩の色が宿る。
「クラウドさん、お返事は?」
 互いの唾液で濡れた唇を指で拭う。
 それに誘われるようにして、クラウドの口が掠れた音を紡いだ。
「……お仕置き、されたいです」
「いい子ですね」
 リーブは笑うと、その白い喉元に噛みついた。

三度の飯が好き

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