[2018/07/09]バレクラ

オペオムバレットさん参戦記念 / バレクラ / 文庫ページメーカー

 バレットがまず探したのはクラウドの姿だった。
 見知らぬ世界で出会えたのは良かったしこの上なく嬉しかったが、そのあとすぐに別行動になってしまったのだ。
 結局その日はケットやティファに移動拠点になっているという飛空艇に案内され、一通りの説明を受けたのち、空いている居室に腰を落ち着けたのが夕方頃。戻る予定の全員が戻ってきてから離陸し、そして今に至る——のだが、やはりクラウドには会えていなかった。
「——クラウド? ああ、戻ってきてるね。多分上にいるんじゃないかな」
「上?」
「あそこの階段から上れるよ」
 全身を黒い鎧に包んだ青年に礼を言うと、バレットは言われたとおり、階段を上がっていく。無骨なハイウィンドとは違って装飾にも気を配られている手すりを掴み、揺れで転ばないように慎重に上がっていった先は、外の景色を一望できるガラス張りのフロアだった。
「お、いたいた」
 ぐるりと見渡し、思い思いにくつろいでいる仲間たちのなかに目当ての金髪を見つけると、バレットはのしのし近づいていく。クラウドは、窓際に据え付けられたソファに座り、ぼんやりと外を眺めていた。
「よう」
 声をかけると、ひどくゆっくりとこちらを向く。その表情はとても明るいと言えるようなものではなく、眉は八の字になり両目は虚ろだった。明らかに酔っている。
「予想はしてたが調子悪そうだなオイ」
「……甲板、修理中で」
「出れねえのか」
「うん」
 それだけ言うと、クラウドはまた外をぼんやりと眺め始める。ハイウィンドでは具合が悪くなるとすぐ甲板に出ていったりチョコボに助けを求めていたのだが、今回ばかりはどちらもなく、渋々ここでなんとか視線を遠くに散らしているらしい。
「隣座るぞ。撫でてやる」
「……ん」
 バレットはよっこいしょと隣に腰掛けると、丸まっているクラウドの背中を撫でてやる。
「大丈夫か? 前より悪くは」
「なってない。大丈夫」
 もっと、と端的な言葉でクラウドが強請る。本当に調子が悪いとまれに悪い方向に行くのだが、幸いにして今回はそこまでではなかったらしい。
 そのリクエストに応えてやっていると、強ばっていたクラウドの身体から力が抜けていくのがわかった。
「……ひさしぶりだ……」
「そうかぁ? オレぁ昨日ぶりだけどよ」
「時間がゆがんでるから、……しばらくいるんだ、ここに」
「そうだったな」
「……」
「クラウド?」
 不意に黙ったクラウドに、もしや吐きそうになったかとその顔をのぞき込む。だがクラウドは、確かに決して良いとは言えない顔色だったが、それでもすこしだけ、その口元に笑顔を浮かべていた。
 蒼い瞳がこちらを見る。
「待ってたんだ。あんたのこと。寂しかった」
 バレットの喉がカッと熱くなった。お前、と叫び出しそうになるのをやっとのことで堪え、代わりにわしわしと頭を撫でてやる。
「お前、ほんとよ、ここがこんなところじゃなきゃ何してたかわかんねえぞ」
「何するつもりなんだよ」
「そりゃまあ、いろいろだよ、いろいろ。人には言えねえようなことをな?」
 この変態、とクラウドの口元が笑う。
 だがそれもすぐに艶やかな笑みに取って替わった。
「——期待してる」
 耳元で囁かれた言葉に再びバレットの呼吸が詰まる。その隙にクラウドは立ち上がると、ぽん、とバレットの巌のような肩に手を置いた。
「後でな。あんたの部屋行くから」
「お、おう」
 一人残されたバレットは、しばらくそわそわとソファに腰掛けていたが、すぐにバッと立ち上がり、クラウドの背中を追いかけることになった。

三度の飯が好き

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