[2018/07/05]バレクラ

オペオムバレットさん参戦記念 / バレクラ / 文庫ページメーカー

 クラウドの記憶のことで話がある、と告げたら、猫型の占いマシーンはすぐに何を言いたいのか察してくれた。
「ああ、はい、ボクも同じ事考えてました。話さなあかんなーって。クラウドさんは?」
「酔ってる」
「あらら」
 飛空挺でそれぞれに割り当てられた部屋の中、バレットはケットの部屋にやってきていた。幸いにしてまだ同部屋の人間はいないというから、腹を割って話ができると踏んだのだ。そしてそれは間違っていなかった。
「ボク、すこーしまえからおるんですけどね。かなり弄られてます」
「やっぱりか」
「エアリスさんのことは覚えてへんのに、ザックスさんのことは覚えとる。ボクの本体も知っとるし、乗り物にも酔う。何が基準かようわかりませんけど」
 こら、えらいこっちゃやで、なんて胡散臭い言葉を遣いながらも、ケット・シーはそのひげをひくひくと動かした。
「ウカツにポロリしてもうたら、クラウドさんのことやしきっと気に病みます。最悪、あの時みたいになるかもしれへん」
「……ああ」
 あの時、というのは忘らるる都からミディールにかけてのことだろう。エアリスを失った後のクラウドの様子は、今でも思い返す度に胸が締め付けられる。あの時はまるで人形だった。必要最低限の話しかせず、こちらが何か言っても頷くか首を振るかだけで、何を見ているのかもわからないような状態だった。生きているのに死んでいる、現と夢の狭間を漂う幽霊のような空気を纏っていた。
 あんなクラウドはもう見たくない。
「せやから、ボクらで頑張りましょ。クラウドさんを、ボクらの世界に戻さなあかん」
「おう、当然だ。……ただ、言いてえのはそれだけじゃねえだろ」
「ありゃ、バレてます?」
 バレットの一言に、デブモーグリの上に座っていたケットの、その気ままにゆらゆらと揺れていた尻尾がぴんと立った。
「ボク、まだクラウドさんのこと諦めとらんさかい。今日はその話もしとこ思いましてな」
「ま、そういうこったろうとは思ったぜ」
「あれ、お見通しですか」
「そりゃあな」
 クラウドはもう覚えていないし、覚えていたところで知っているかどうかはわからないが、かつてこのケット・シーと——正確にはケット・シーの本体と——バレットは恋敵でもあった。元の世界ではバレットがクラウドの相手として競り勝ったが、その時ケット・シーの本体に、しっかりと釘を刺されたのだ。
 何かあったら、本気出して奪い取りに行きますから、と。
「どうせあんたのことだ、あいつがオレとのことを綺麗さっぱり忘れてるってのも知ってるんだろ」
 んふふ、と再びケット・シーの口元が動く。一見して愛らしいが、しかしその表情の真意は計り知れない。
「あっ、言うときますけど、嘘刷り込むような汚い真似はしません。正々堂々獲りに行きますから、よろしゅう」
「あんた、そういうところ律儀だよな」
 すると、長靴を履いた猫の妖精は、ゆらゆらとそのしっぽを揺らしながら言った。
「何事もフェアプレーですわ」
「……スパイの癖していっちょ前のこと言うじゃねえか」
 に、とそのふっくらとした愛らしい口元が笑みの形を作る。
 ちらりと覗いた白い犬歯が、灯りをきらりと反射した。

三度の飯が好き

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