落ち込み気味のクラウドちゃん / バツクラ / 文庫ページメーカー
それとなく誘ってみたら、返ってきたのは「今は嫌だ」という端的な拒否だった。
「嫌か? そっかー」
「……ごめん」
「いいって。乗らないときにヤっても気持ち良くないだろ? おればっかり良くなるのも嫌だし、おれはクラウドに気持ち良くなってもらいたいし」
だからそんな謝らなくていいんだぜ、とふわふわの金髪を撫でてやる。うまくたどり着けた民家でシャワーを浴びたばかりだからか、ほんの少しだけ、いつもよりしっとりしていた。
「なあ、何かあった?」
やらないならちゃんと寝ようかと布団を引き上げながら、バッツは普段よりも幾分静かなクラウドの顔をのぞき込む。確かに前からしゃべるタイプではなかったが、声のトーンがいつもに比べて少し低いのが気にかかった。それに、断るときも「食いすぎたから抱かれたら吐きそう」だの、「まだ腰が痛い」だの、「生理中」だのと(最後はともあれ)具体的な理由を出す。そんなクラウドが、ただ「嫌だ」と拒否するだけというのは、何かあったとしか思えなかった。
「言いたくないなら言わなくて良いからな」
するとクラウドはしばらく黙ったのち、ぽそりと口を開いた。
「……うまく言えないんだ 」
「そっか。もやもやしてんの?」
「してる」
「じゃあ言いたくても言えないな」
「うん」
ごめん、とまたクラウドの口が動く。謝らないでいいんだって、とまた頭をわしわしと撫でてやると、そのまま手を滑らせて白く張りのある頬に添える。
「じゃあ、おれに何かしてほしいことあるか?」
何でも良いぞ、と薄い唇をなぞってやったら、ほんのすこしだけ掌に伝わる体温が上がった。照れてら、かわいい、という率直な感想は心の中にしまい込んで待つことしばし、クラウドがゆっくりと言った。
「……抱きしめてほしい」
「よっしゃ、来い来い!」
ぐいと引き寄せ腕の中に閉じこめてしまうと、勢いに驚いたのか「わ」という短い声が聞こえた。だが抵抗はない。小さい子供にそうするように背中を撫でてやると、少しだけ力が入っていた体からだんだんと力が抜けてくる。
「おまけは? いるか?」
「じゃあ、キスだけ」
「任せろ」
バッツはそのかわいらしいおねだりに応えてやることにした。少しだけ身体を離し、二回、三回と軽く啄んでやったところで、クラウドの頭がまた肩口に埋まる。
「……任せろって、あんた、ムードも何もないな」
「ムード作ったって、今のお前にはあんまり意味ないだろ?」
「……」
「素直でよろしい」
いい大人なのに、肝心なところで嘘がつけない素直さがたまらなく可愛い。きつすぎないように、それでもできるだけ強く抱きしめてやったら、小さく「バッツ」と名前を呼ばれた。
「なんだ?」
「ありがとう」
だいすき、という一言を最後に、クラウドの体から力が抜ける。直後深い吐息が聞こえだした。
(相変わらずお休み三秒だなあ)
それもまた可愛いんだけどさ、と自己完結する。
バッツは完全に無防備な身体を抱えながら、バッツもまた己の意識を眠気に委ねた。