[2018/06/28]バレクラ

幻獣王とのみちゆき / バレクラ / 文庫ページメーカー

 召喚獣は魔力を食う。
 これはマテリア学を学んだ者であれば誰もが知っている内容らしい。まずは異界に棲む彼らを喚び出すために、マテリアの中に組み込まれた古代種の知識を使って『門』を開く時。そして、招かれた幻獣が現世に留まり、その力を振るう時の二度、魔力が必要となるためだ。もちろん召喚者の魔力量が十分であれば、召喚獣はその分長く顕現し続けることができる。
 もしくは、
「——こら、肩の上で喧嘩するな。今割ってる、割ってやるから、ピアスを噛むんじゃない。……だから噛むなって」
 手のひらサイズまで小さくなってしまえば、十分な魔力量でなくとも顕現し続けることができる。
「なあ、クラウドよう、なんでこいつら出てきてんだよ」
 肩の上でバサバサギャーギャーと喧嘩し出したバハムートとバハムート改を宥めつつ、両手に携帯食料を持ってそれぞれに食べさせてやっているクラウドを見かねて口を出したら、彼はただ「知らない」と言った。
「最近いきなり出てくるようになったんだ」
「なんでだよ」
「だから知らない。知ってたら苦労しない」
「まあそりゃそうか」
 半分に割ってもらったらしいビスケット状の携帯食料を両手に抱え、実に美味しそうにサクサクと食べている様子は小動物のように実に可愛らしいのだが、一度喚ぶだけでも魔力を根こそぎ持って行きかねない奴らだ。ごくごく小さくなったとはいえ、やはり消費する魔力はそれなりにあるらしく、クラウドの顔には少しばかり疲労が滲んでいる。元から魔法は得意だと言っていたが、流石の彼でも幻獣王の名を冠する召喚獣を二頭維持し続けるのは辛いらしい。
「戻せねえのか?」
「戻らないんだよ。一回戻してもすぐ出てくる」
「サイレスか何かで出てこないようにしたらどうだ」
「いざって言うときに魔法使えなきゃ危ないだろ」
「そりゃそうだけどよ、お前だっていざって時に体調悪かったら危ねえだろ」
「その時はこいつらを投げつけてなんとかしてもらうよ」
 途端、ギェッ、と両肩の兄弟が——勝手に兄弟だと考えることにした——変な声を出した。特に付き合いの長い黒い方は、ビスケットを取り落としてしまっていることにも気付かずに、そんなことはやめろと言わんばかりにクラウドの頬に手を当ててむにむにと揉んでいる。どうやら人語は理解しているらしい。
「なんだ、嫌なのか。幻獣王のくせに」
「ギュイギュイ」
「ギャー」
「じゃあ戻れ」
「ギュウウウウ」
「グゥーグゥー」
「わがまま言うんじゃない」
 はたから見れば微笑ましい。だが、魔力の枯渇は特に魔力量の多いクラウドにとっては反動がきついため深刻な問題だ。それでも戻りそうにない二頭と、口では色々言いながらも別に戻そうともしていないクラウドにバレットはため息を吐く。
「しょうがねえな、ちゃんと薬飲んどけ。オレの分も飲んでいいから」
「わかった。ありがとう」
 不意に向けられたクラウドの笑顔に少々面食らいながらも、バレットはその動揺を隠すように「いいって」と頬を掻いた。

三度の飯が好き

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