直後平手打ちされるレノさん / レノクラ / 文庫ページメーカー
艶やかなドレスに身を包んだ「彼女」を壁際に追いやり、腕を壁につき逃げ場を奪うように見せながら、自分とクラウドの口元を隠す。周りから見えなくなった瞬間、蕩けていた瞳がすぐに冷め、まっすぐに自分を見つめてきた。
「——見つけたぞ。後ろにいるあいつ」
「臙脂色の?」
「そう。デブの金髪」
極力口説いているように見せかけながら、レノとクラウドは密やかな会話を続ける。クラウドがターゲットを目で追い始めたのを確認して、レノは端的に続けた。
「口説き落とせ」
「……ほんと簡単に言ってくれるな」
「実際簡単だろ、と。あいつもうオマエにセクハラしてる奴だし」
「あんたそういうのも見てるのか」
「そりゃあお仕事ですから」
「俺は触られすぎて誰が誰だか覚えてない」
そりゃかわいそうになあ、とレノはその頬に手を添えた。化粧が落ちないように撫でてやる。
「仕事が終わったら慰めてやるよ、と」
「期待しないで待ってるよ。……で、どういう方針でいけばいいんだ」
「あー、そうだなあ」
レノは少しばかり思案する。
確かターゲットはパーティーの中でも顔を売りたい側に来ている。金と人脈を持っていそうな、しかもタイプの女に対しては、おそらくどんな手を使ってでも近づきたいはずだ。それなら良い案がある。
レノはニヤリと笑うと、クラウドにささやいた。
「——よし。一発喧嘩しようぜ、と」