[2018/06/24]バレクラ

ミディールにて / バレクラ / 文庫ページメーカー ※R18表現あり

 反応のない体を車椅子から抱き上げる。そして、草原の上に敷いたシートの上に寝かしてやると、横になったことで余計な力が抜けたのか、どこともしれない場所を見ていた目がゆっくりと瞑られた。
「ああ、気持ちいいか。よかったな、外に出るのはしばらくぶりだもんなあ」
 答えが返ってこないことは承知の上で話しかけ、そよそよと穏やかな風になびく髪を梳いてやる。熱もなく、呼吸も穏やかだ。パニックを起こしているような様子もない。久しぶりの外の散歩だったが心配は杞憂に終わったようだ。ほっと胸をなで下ろしたバレットは、自分もシートの上に腰を下ろす。そして、おもむろにクラウドの服に手をかけた。
 外出用にと着せた服の下から白い肌が現れる。あれだけの死線をくぐり抜けてきたというのに傷一つない白い肌は、手を滑らせるとしっとりと吸いついてくるようだ。
 さわられたことによって反応したのか、クラウドの目がうっすらと開く。だが、バレットの方は見ていない。ただいつものように、視線を宙にさまよわせている。
「……ごめんな」
 バレットは一言だけそう謝ると、抵抗も何もしない身体の上にかがみ込んだ。
 
 ——外への散歩に連れ出すついでにその身体を抱くようになったのは、あまり前のことではない。
 最初こそ罪悪感を引きずったが、回数を重ねてていくにつれだんだんとその罪悪感にも慣れてきた。代わりに頭の中を埋めていくのは、自分でも最低だと思えるくらいには薄っぺらく、そして下衆な言い訳だった、
(こいつは空に浮かぶ星を喚んだ原因でもある、償いをさせて何が悪い)
(こいつだって男だ、抜いてやらなきゃいろいろ大変だろう)
(前からオレが抱いてたんだ。場所が変わっただけだ)
 慣れるだけで罪悪感はなくならず、そして自分の汚さばかりが増していく。だが、バレットはクラウドを抱くことをやめなかった。やめられなかった。
「——ぁ、あ、あっ」
 腕の中の身体が切なげな声を漏らしてふるふると震える。やがて力が抜けて自分にもたれかかってきたが、バレットは動きを止めず、魂の入っていない抜け殻を蹂躙する。やがて行為が終わりようやく抱きしめていた身体を解放すると、彼は瞳をぐったりと閉じたままシートの上に横たわった。
「畜生、……ごめんな、ごめんなクラウド」
 額に張り付いた髪をのけてやりながら、バレットはただひたすらにクラウドに謝る。
 だが、答えが返ってくることはついぞなかった。

三度の飯が好き

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です