[2018/06/20]セフィクラ

視線を合わせただけで思考を読んじゃうから処置してもらったクラウドちゃん / 文庫ページメーカー

 今回の処置はうまくいったらしい。
 処置をすると言っていた次の日に様子を見に行ったら、クラウドはいつも通りそこにいた。ただ、両目は真っ白い包帯に覆われていることだけが、前と違っていた。
「よう。調子どうだ」
 胸中に渦舞く重苦しい感情をごまかすように、バレットは敢えて明るい声をかける。すると既に起きていたのか、クラウドは顔をバレットの方に向けると、いつものあの方法で答えた。
【見えなくなった】【きこえない】【すごく嬉しい】
「そうか」
【おれでいられる】
「……そうだなあ。入って良いか」
 うん、とクラウドの首が動く範囲で頷いた。
 バレットは指を鍵の部分、ちょうどそこだけ材質が異なるパネルのようなものに押しつける。がこんと音が聞こえるまで待ってから檻の入り口を開けると中に入った。先ほどまでの硬い床とは正反対の、まるで雲の上にでも立っているかのような不思議な感触を足の裏に感じながらも、部屋とすら呼べない殺風景な空間にただ横たわる体に近づいた。
 間近で見る彼はいたって元気そうだった。機嫌が良いのもあるだろう。どんな処置を受けたのかは知らないし聞こうとも思わないが、それでも、ここのところずっと塞ぎ込んでいたことを考えれば、自分たちの選択は正しかったのだろうと思えた。
「触るぞ」
 バレットは拘束具ごとクラウドの身体を抱え上げ、胡座をかいた膝の上に載せる。そのまま横抱きにしてやったら、【やめろ】【はずかしい】という声が聞こえてきた。
「なんだよ、前もやったろ」
【みえないから、逆に恥ずかしい】
「そうかよ、まあやめねえけど」
 今度はクラウドの喉から笑い声が漏れた。身をよじってはいるものの本気の抵抗ではないということはわかったので、わざと抱えたまま揺らしてやったら、また笑い声が聞こえた。そのまま大人しくなったところを見ると、どうやら諦めたらしい。
「……また軽くなっちまったな」
 腕の中の存在感に思わずそう零したら、クラウドは【うん】と言った。
【たべてないから】
「やっぱり減らねえのか」
【へらない】
「他は? 具合悪いとこ、あったら言え」
【ない】
「目は? 痛くねえのか」
【いたくない】【不思議】【変な感じ】
 たぶん取ってもらったんだ——そう続いた言葉に、またバレットの胸が痛んだ。
「……綺麗な色だったのになあ」
【ほめてる?】
「なんだよ、褒めて悪いか」
【きもちわるい】【雪でもふりそう】
「うるせえ」

三度の飯が好き

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