寝た。
気絶するように寝た。もしかしたら気絶だったのかもしれないが、とにかくずっと窓をひっかいていた彼は糸が切れたように寝た。何もせずに見守っていたのが功を奏し、恐る恐るご飯を食べてくれはしたのだが、それでも逃げることは諦めていなかったのか窓をひっかき続けた。そして目を離した数秒のうちに寝ていた。
「赤ちゃんか?」
「言い得て妙」
たぶん疲れたんだろうと言い、アウラの青年が力の抜けた身体を窓から離れたベッドに放りこむ。念の為にと脈や心音を見、寝てるだけだから問題なしと太鼓判を押し、さらに念の為にとそのまま泊まり込んでもくれた。顔は怖いが面倒見は良いのだ。
——そして次の日の朝、ベッドの上で丸まっていたはずのミッドランダーの彼は、もっと小さく丸まってこちらを見ていた。
「起きるのはやいねー」
「……」
「あーまだだめか」
窓や扉に行こうとしないのはちょっとマシになっているのかもしれない。ただ声をかけた瞬間に膝を抱えた身体がいっそう縮まったので、完全に警戒を解いてくれているわけではなさそうだ。
とりあえずアウラの彼をたたき起こし、今度はそっちの番だと買いに行かせた食事を与えたところ(今度はあっさり食べてくれた)、なんとまたしてもぶつんと寝た。
「赤ちゃんか?」
「うーん反論できない」
だがこれはこれで助かる。ベッドの隅っこに寄ってしまった身体にブランケットをかけてやってから、二人は改めて作戦会議に入った。
「どうしようね」
「お前が轢いたんだからお前が責任を持つとしてだ」
「轢いたって何?」
「どこから来たのかって話だよな」
「ねえ轢いたって何? まあいいけどさあ」
ふんすと鼻から息を抜いて腕を組む。
たしかにぶつかってぶっ飛ばしてしまったのは自分だから、言われずともできることはするつもりだが、彼がこのリムサ・ロミンサに来た理由によってはちょっと厄介なことになりそうだ。場合によっては大人の喧嘩をする羽目になるかもしれない。喧嘩は大歓迎だが面倒くさいことになるのは勘弁だ。
「……そんなら、ジャックお兄さんにちょっと聞いてみよっか」
ついでに肉も受け取りに行きたいと言うと、細い眉がすっと寄った。
「エーデルワイス商会の?」
「うん。人身売買とかかもしれないでしょ。そういうのに首突っ込むなら、一言言っとかないとこっちにも飛び火しそうだし、怒られそう」
あともしかしたら何か情報を持っているかもしれない。
すると、真剣なまなざしをした厳つい顔はあっさりと「なるほど」と頷いた。
「ならそっちは頼んだ」
「あんたはどうすのさ」
「ここにいる。一人にするわけにもいかないだろう」
「ええー働けよ」
「無理矢理呼びつけた相手に言うことか? 見ててやるだけ感謝しろ。お前が出てる間に起きたら連絡入れてやるから」
至極まっとうな正論を真正面からぶつけられたので、ただ「ウス」と答えるしかできなかった。