自機+いつも遊んでくれているよそのこたち
(ロロココきょうだい+シルヴァおじいちゃん+ライハくん)
腰が爆発した。
「ぉあ」
着弾したときはたぶんそういう声が出たと思う。正直なところ声かどうかすらも怪しい。とにかく宿屋から出てマーケットにでも行こうかと上甲板の道を歩いていたら、突然昨晩酷使した腰が爆発して無様に倒れた。ついでに顔もすこし打った。
「あっ!? ごめんなさい!!」
背中側からそんな声が聞こえてきたので、首だけ動かして後ろを見ると、ちょうど見慣れたモーグリの杖から癒しの光がふわふわと漂ってくるところだった。
光と痛みが収まってから見えてきたのは、桃色の髪をしたレンの少女だ。
「会うの久しぶりだったから勢い余っちゃって……!」
「ロロ姉走るの速すぎ!!」
さらに後ろからは、大柄なレンの少年が走ってくるのが見えた。彼もまた体の大きさに似合わない速さでつっこんでくると、ギャギャギャと床が悲鳴をあげそうなほどの急ブレーキで止まる。
「お久しぶりっす!」
「ひさしぶり……」
「ココちゃんまたそうやって止まるー靴裏減るって言ってるじゃん」
「別にいいじゃんか、直しゃいいんだし」
「ものは大事につかうものですー」
突然始まった姉弟喧嘩に何も口を挟めないまま、おそるおそる身体を起こして、何事もないことを確認しながら地べたに座る。無邪気なやりとりは見ていてとても微笑ましいので、波音を聞きながらしばらく見守っていたら、姉の勝利で終わったらしい。ふんす、という鼻息とともに振り向いた姉――ロロが、えへ、と表情を崩した。
「こんにちは!」
「はいこんにちは。また腕上がったか?」
「へへへやったぜ」
「やったぜじゃねえよロロ姉、自分でこかしといて」
「そういうココちゃんだって走ったでしょ」
「俺はちゃんと止まるつもりだったし。兄貴はレジーの姉貴じゃねえんだからさ」
大柄な少年――ココが付け加えた言葉にちくちくと心を刺されながらも、差し伸べられた大小二つの手を借りてよっこいしょと立ち上がる。
友人の伝で知り合い、度々依頼ごとの手伝いに同行したことのあるこの姉弟は、会話していると実に飽きない、明るく元気で、そして無垢な冒険者だった。たしか姉のロロは白魔導士、弟は戦士で、グリダニア周辺でよく見かけていた気がする。
「リムサにいるのは珍しいな。何か用事か?」
ぱんぱんと服の埃を払いのけながら聞くと、ココがニカッと鋸歯を見せて笑った。実に人好きのする笑顔だ。
「ちょっと俺の野暮用で、コーラルタワーにいってたっす」
「私はココちゃんにくっついてきちゃった。たまには一緒にご飯食べたいなーって思って」
「リムサ飯うまいもんな」
「それねー!」
「兄貴は? また酒?」
「またってなんだよ。合ってはいるけど」
一仕事終わったからお酒飲んで泊まってきた、と極力省いて伝える。嘘は言っていない。
「あんま飲み過ぎちゃだめっすよ」
「そうだよー、またレジーちゃんに怒られるよ」
「それが俺、姐貴には怒られたことないんだなこれが」
「甘え過ぎじゃない?」
「大人だって甘えたくなるときがあるんだよ。いいから飯いってこい」
はーい、という二つぶんの良い子のお返事を見送りひらひらと手を振る。元気な少年少女は見ていて心が洗われるようでたいへん気持ちがいい。
「――といっても君の心が綺麗になる訳じゃないがね?」
「いきなり後ろに出てきて心読まないでくれよじいさん。サトリか?」
そして、突然後ろからたいそう失礼なことを言ってきた声の主を振り返った。
「人をひんがしの国の妖怪みたいに呼ぶもんじゃないよ」
「はいはい。で、なんだよわざわざお迎えか?」
「おうよ!」
続けて割り込んできたのはアウラの青年だ。どうやら二人とも、ちょうど近くのエーテライトから飛んできたところらしい。どちらも物々しい格好をしている様子からして、だいたいどんな用事で来てくれたのかおおよそ察しがついた。
「依頼?」
「そう。聖コイナクの方から、久しぶりにクリスタルタワーの調査」
「癒し手が足りねえんだとさ。アンタ前に占星術師やってるって言ってたよな」
「ちなみにあのゲテモノ好きのお嬢さんも来るよ」
「あいつ来るなら俺要らないような気がするんだがなあ……」
だが一応腐っても冒険者だ。それに、あそこの仕事は何かと実入りがいい。行かない理由はなかった。
「行く。着替えてくるからちょっと待った」
「よっしゃ! 連絡してくる!」
「じゃあいったん家帰るから」
エーテルを通したとたん、ふよんと身体が浮く。思い描く行き先は住み慣れた我が家だ。
寄り道するんじゃないよというおまけの一言にするかよと返すと、エーテルの流れに身を任せた。