狂犬とオオカミ:バレットさんとセフレのクラウドちゃん / バレクラ / 文庫ページメーカー ※R18表現あり
分厚い筋肉の塊に爪を立てる。まるでそれが合図であったかのように、胎の中の熱がはじけた。
体中を暴れ回る快感に溺れきったあとにようやく浮かび上がってみれば、身体の中から巨大な質量が引き抜かれる感覚だけがやけに際立って、ぞわぞわと背筋が泡立つ。
「……っあ」
「おう、大丈夫か」
ぽんぽんと頭の後ろを撫でてくれる大きな手に、それまでどきどきと必死に血液を送り込んでいた心臓が徐々に落ち着いてきた。は、と詰めていた息を吐き出してみれば、ちかちかと明滅していた視界が、元の古びたモーテルの壁を映し出す。
「ふぁ、あ、……ッあ、やばい……」
「なんだ、トンだか?」
「……あんたの、ひさしぶりだったから」
膝の上に載せられる形で抱き上げられていたのが、ゆっくりとベッドに横たえられる。安物のスプリングが、先程よりはずいぶん控えめな、ただそれなりに耳障りな悲鳴を上げた。
柔らかいマットレスに身を沈めながらぼんやりと年季の入った天井に視線をさまよわせていたら、そこに大柄な熊を思わせるシルエットがぬっと割り込んでくる。
「拭くぞ」
「どうぞ」
脱力しきった声でそう答えたら、ごわごわとしたタオルで拭ってくれていたバレットは「おい」とあきれ気味の声を出した。
「どうぞってなあ、もうちっと自分でやろうとか、そういう気持ちはねえのかよ」
「ない、なくなった、使い切った」
「体力落ちたか?」
「ちがう」
あんたが際限なしなんだ、とその荒い動きにされるがまま答える。この熊男は、クラウドの知る限りではかなりの絶倫の部類に入る。しかも今は、人気のない荒れ地で男所帯の中長期間の掘削作業に従事しているとくれば、久しぶりに「こういうこと」ができる仲の人間と会ったらどうなるかは推して知るべしである。抜かずの三発は当たり前、しかも休憩を挟んでさらに二回でようやく気が済むとは、普通の人間よりは体力があるクラウドでもさすがにバテるというものだ。
「炭鉱夫ってそういうものなのか」
「知らねえよ、っつうか炭鉱夫で括んのかよ」
「だって」
だが、その後に続けようとした言葉が持つ意味に気づいて、クラウドは口をつぐんだ。だがバレットは特に何も追及せず「あーわかったわかった」と話を切った。
「セフレか」
「……まあそんなところ」
「この前の若いのか?」
「違う」
「まじかよ」
お前もやるななんて笑いながら、バレットの影が視界から出て行く。そしてすぐ、今度は後ろに大きな温もりがひっついてきた。
「ま、なんだ、危ねえ奴には近づくなよ」
「あんたみたいな?」
「オレは危なくねえだろ、どっちかっつうとワイルドの方だろ。いいから寝ろ」
毛布が引っ張り上げられ、クラウドの身体は太い腕と重ための布にすっぽりと収まってしまう。仕上げとばかりにポンポンとされてしまえば、あっという間に眠気がやってくる。
(あぶないやつ、……危ないやつか)
そうなると、この前のあれは――ダインはきっと、その危ないやつに入るのだろう。殴られたし、後から思い出してみたら何か突きつけられた記憶もある。
だがクラウドは、今の段階でバレットに言うつもりはさらさら無かった。「だって、ダインもそうだったし」——などと言ったら、バレットがどう反応するか全く予想ができない。別に怒られるのが怖いとかそういった子供じみた理由ではないが、今はまだ言うべきタイミングではない気がする。
(……こんど、言えるようになったら、いおう)
ダメ押しとばかりに再度撫でてくる手に意識を押しやられながら、クラウドはうとうとと目をつむる。
あのときの腕と同じように筋肉をまとった、しかしわずかに違う悲しみを伝えてくる腕に抱えられながら、クラウドは眠気に飲み込まれていった。