[2019/01/18]ダイクラ

狂犬とオオカミ:みもさんに沼にはめられた / ダイクラ / 文庫ページメーカー ※R18表現あり

 暴く。犯す。蹂躙する。抵抗も悲鳴も何もかも抑えつけて、自分の良いようにただ凌辱していたら、組み敷いた肢体はいつのまにか大人しくなっていた。
「っ……」
 短く息を吐き、勢いを失った自身を血やら体液やらでぐずぐずになっているそこから引き抜く。押さえつけた身体がびくん、と震えたのがわかった。
 自分の呼吸を整えながら、ダインはのしかかっていた身体の上から退く。だが、先ほど以上の反応はなく、それはただぐったりと簡素な寝台に身を横たえているだけだ。
「……おい」
 声をかけてみたのものの反応はない。もう終いかよと悪態をつきはしたものの、実際ダインも限界だった。無理に起こそうとはせずに、自分もまた寝台に横になる。
 正直なところ、自分がなぜこういうことを――見ず知らずの、おそらくは近くの村の人間たちに言われて様子を見に来たであろう青年にこれほどまで欲情し、相手が気をやるまで抱き潰すなんてことをしたのかはわからない。理性がかろうじて残っていたといえる最後の記憶は、この青年の金髪と、不思議な色をたたえた瞳だった。
 どういうわけか掻き立てられたのだ。その青年が後ろを向いた瞬間、ダインは青年に飛びかかっていた。崖から落ち、生死を彷徨い、死に体となってこの村に流れ着いてから久しく感じていなかった人として、生き物としての衝動がさながらマグマのように噴出し、そして青年へ文字通り襲いかかった。
 ――殺せば良かったのに。
 頭の中でそんな声がした。確かにそうだ、今後のことを考えるとそうした方が良かったし、何より気持ちがいい。それに、あの目はどこかで見たことがあるが、きっと良いものではないだろうということだけは肌で解った。だから殺せば良かった、いや殺すべきだったのだ。
 だが、ダインはそうしなかった。
「……」
 隣に目をやる。
 涙やら涎やらで汚れてしまった寝顔がある。ほんの少しだけ息が荒い。頬の赤みもまだ取れていないその表情は、驚くほど幼かった。
 本当に気まぐれに、額に貼り付いた金髪をほんの少しだけ除けてやる。その瞬間、力の入っていた眉間が僅かに緩んだ。
「……ハッ」
 何してんだか、という言葉とは裏腹に、ダインの手は止まらなかった。髪を直して顔も拭いてやり、果てはわざわざ身を起こして汚れた身体を綺麗にしてやると、そこでようやく手が止まった。
 力の抜けた身体にブランケットをかけ、数瞬迷って自分もその温もりに寄りそうと、数年ぶりの感覚に――しばらく忘れ去っていた安堵に身を委ねて目を瞑る。
 その夜は、不思議と静かな夜になった。

三度の飯が好き

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