[2018/11/26]バレット+モブクラ

モブクラに遭遇したバレットさん / モブクラ / 文庫ページメーカー

 ドアをノックしてから奴が出るまでしばらく時間がかかるのは、いつものことだから気にしていなかった。二人部屋の時だって起きるのは遅かったから、一人部屋の時は尚更だろう。
 どたどたと少しだけあわただしげな物音が扉越しにかすかに聞こえたと思ったら、ドアノブががちゃんと捻られた。ぎ、と古ぼけた蝶番が軋み、ようやく扉が開いて明らかに今起きたばかりのガウン姿がドアの隙間に現れる。
「おう、起きたな」
「……まだだいぶ早いだろ」
 返ってきたのは朝の挨拶でも何でもなく、不満がありありと滲んだそんな一言だった。いつもの鳥頭の原形を辛うじて保った鳥の巣頭は、どうやら相当にご機嫌斜めらしい。だが、バレットだって好き好んで朝早くに起こしているわけではなかった。
「ハイウィンドのシャワーが壊れちまってよ。貸せ」
「嫌だよ」
「何でだよ、誰か使ってるわけでもねえだろ」
「使ってるんだよ」
「ああ?」
 その返答に、バレットは思わず眉を寄せた。今回地上に宿を取っているのはユフィとクラウドの二人だけのはずだ。だが、確かにドアの向こうからシャワーを使っているらしい音が聞こえてくる。先を越されるまいとして早めに出てきたが、まさかシドが先に起きてしまったのかもしれない。
「じゃあ中で待たせろ」
「ハイウィンドで待てよ」
「また戻れってか? 面倒くせえ」
 いいから入らせろと無理矢理押しのけ部屋の中に入る。結構いい部屋だったらしく、広めのベッドの他に服が脱ぎ散らかされたソファーや小さいテーブル、さらにはミニマムなテレビまでが備え付けられていた。
「なんだ、結構良いじゃねえかここ」
 クラウドが脱ぎ散らかした服をのけてどっかりとソファーに座る。と、そのタイミングでようやく先客もシャワーを終えたのか、シャワールームの扉が開いた。
「おうなんだお前、早起きなん……だな……?」
 だが、軽く挙げた手は途中で止まり、口から出た言葉も勢いを失ってぽてぽてと床に落ちる。
「だから言ったんだ、あっちで待ってろって」
 最早諦めの色が濃いクラウドが、鍵を閉めて戻ってきた。そして、ほかほかと湯気を立てながら同様にすっぽんぽんのまま固まっているそいつの隣に並ぶ。
「あんたには紹介してなかったな。彼はクレイグ、このエリア中心に建設業をしてる。——クレイグ、あの熊みたいなのはバレット。前話した、一緒に旅してる仲間」
 ——そっちも熊みたいだろうが、という心の声はさすがに飲み込んだ。
「……で、この、クレイグさん? は何でお前んとこにいるんだ」
 初めましての挨拶すら忘れて、バレットは戸惑いの視線をクラウドに向けた。
 すると彼はさも面倒くさいと言った様子で肩をすくめる。
「見てわかるだろ。セフレだよ」
「あっと、どうも、バレットさん」
「お、おお……どうも……」
 少々贅肉は目立つが、それなりに筋肉があるのだろう体格をしている男——クレイグは、ぽりぽりと頭をかく。そして、粗野だが人好きのしそうな笑顔をへらっと浮かべた。
「その、すんませんが、パンツ取ってもらっていいすか」

三度の飯が好き

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です