[2018/11/06]バツクラ

クールなクラウドちゃん / バツクラ / 文庫ページメーカー

 クラウドはいつもクールだ。
 今までつきあってきた中で、感情にまかせた振る舞いをしたことも、子供っぽいわがままを言ったこともない。バッツより年上だからと言うところもあるかもしれないが、それにしたって一歳だけの違いでここまで大きく変わるものではない——と思う。
 別行動の中、ほんの少しだけ会えた時でもそれは変わらなかった。性急に体を重ねて、今まで会えなかった分を取り戻すかのように互いを貪った後もそうだ。一緒にいたいなあ、なんてバッツが言っても、そうだな、ぐらいしか返してくれない。
 これじゃあおれだけ好きみたいじゃないか——そう思った時期もあったが、今はもうクラウドはこういう人間なのだと理解しているし、自分なりに折り合いもつけている。何より、あまり他人と深く関わろうとしないクラウドが、自分とこういう関係になってくれたということそのものが、バッツ・クラウザーを選んでくれたということに違いないのだ。
「離れたくないなあ」
 そして今日も、バッツはその身体を抱きしめたまま、名残惜しげにつぶやいた。ほんの少し前まで快感に翻弄されていた身体は、未だに熱く息も整っていない。
「……ん、」
 情事の余韻に掠れた声がして、閉じられていた瞼が開く。
「なに?」
「離れたくないなあって。たぶん、もうちょっとだろ」
 言いながら、バッツは抱えた腕に少しだけ力を込めた。
 最後の決戦が近づいているのは、ここに集った戦士たちすべてが感じている。そしておそらくは、この先に待ち受けているカオスを討ち果たしたら元の世界に戻れるだろうということも。
「おれさ、ずっと旅してたから、一期一会なんて慣れっこだって思ってた」
「……」
「でもぜんぜん慣れっこじゃねえや。クラウドと離れるの、すげえしんどい……」
 向こうに帰ったら帰ったで、バッツには待っている仲間たちがいる。仲間たちに会えるのはとても嬉しいが、それでもこの目の前の別離は、今まで感じたことがないくらい、バッツにとっては耐え難いものだった。
「……バッツ」
 すると、それまでただ黙って聞いてくれていたクラウドが、すっとバッツの頬に手を添えてきた。だいぶ落ち着いてはきたものの、それでもほんのりと熱を宿す指が肌を撫でる。
「俺も」
 だが、その唇からこぼれ出てきたのは、いつもの余裕を感じさせる言葉ではなかった。
「俺も、」
 らしくなく震える声にバッツは息を呑む。
 普段のクラウドはそこにはいなかった。いつもならまっすぐ見つめ返してくる瞳はわずかに揺れ、形の良い眉も切なげに寄っている。今にも泣きそうじゃないかと思った矢先、緩やかな曲線を描く目の縁から、ぽろりと透明な滴がこぼれ落ちた。
「俺も、ずっと、一緒にいたい」
 そのまま決壊しかけたクラウドを、衝動に任せて抱きしめる。汗を含んでしっとりした後ろ髪に指を埋め、己の胸に抱き寄せてやると、小さく押し殺した嗚咽が聞こえてきた。
「おまえ、おまえもそんな顔できるんだなあ」
「だれの、……っだれのせいだと、せっかく、がまんして」
「うん、悪い、ごめん、我慢してたのか」
 胸中にこみ上げてくる愛しさを堪えることなく、バッツは擦りよってくる身体を、まるで幼子にそうしてやるかのように抱きしめ、宥めてやる。
 クラウドがすっかり落ち着いてしまうまで、バッツはいつまでもそうしていた。

三度の飯が好き

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です