マシュマロリクエストより別荘デート / ヴィンクラ / 文庫ページメーカー
お待たせと言って出てきたクラウドは、その両手にしっかりと浮き輪を抱えていた。
「……お前、泳ぐのか」
「いや」
「ではなぜ」
「浮かびたい」
それは泳ぐと同義ではないのかと思ったが、口には出さなかった。言ったところで何になるわけでもない。それにクラウドの中では、もうすでにその浮き輪は使うということが決定しているというのがしっかりと伝わってきたからだ。せっかく別荘の管理人さんに借りたんだからとか言っているその足取りは軽かった。普段のブーツよりもぐっと軽いビーチサンダルをはいているから——というだけではないだろう。
「二つは使えないぞ」
「あんたも浮かぶんだよ」
「私もか」
「当然だろ」
嫌か? なんて首を傾げられたら、まさか嫌だなんて言えるわけがない。嫌じゃない、と首を振ると、ヴィンセントはクラウドの後を追い別荘を出て鍵を閉める。
鍵を手首に巻き振り向けば、リゾート地の喧噪と焼け付くような太陽の光。
「ヴィンセント」
その光の中で、金の髪を煌めかせながら待っていたクラウドが、サングラスの奥の瞳を細めて笑っていた。
「早く行こう」
「……ああ」
まるで太陽の化身のような彼に誘われるがまま、人で溢れかえる中に踏み出す。
かつての自分が見たらどう思うだろうか——などとくだらないことを考えながら、ヴィンセントはまぶしい恋人の後を追った。