[2018/06/30]コルクラ

配達屋のオフ / コルクラ / 文庫ページメーカー

 珍しく空いた日の朝だったが、その惰眠は携帯の呼び出し音で終わった。
『——あ、もしもし、にーさん?』
「にーさんという名前じゃないが、名乗っておくと一応配達屋だ」
 ベッドに入ったまま携帯を引き寄せ、何か用かと尋ねると、電話の向こうの得意先は『悪い悪い』と軽めの返事を寄越してきた。
『あのさ、運んでほしいもんがあるんだけど』
「……ショップからの注文はまだ来てないな。店以外の品か」
『っそ』
「ものによるぞ」
 運べないものは運ばないからな、と伝えると、ノクティスは『多分いける、行けると思う』と曖昧な表現で返してくる。うっすらと厄介そうな気配を感じたがも一応得意先の話ゆえ、ものと場所を聞かないで断るわけにはいかない。ベッド脇のテーブルにさらに手を伸ばして置いていた手帳を取り、予定の空き具合を確認する。さらに場所を聞いたら、フェンリルであれば特に問題なく行けるようなところだったので、あとはものさえ用意できればなんとかなりそうだ。
 それをそのまま伝えると、ノクティスは『マジで? やった』と嬉しそうな声を出した。
「早まるな、ものによるからな」
『あーうん、もの自体は大丈夫だと思う。多分近くにあんじゃね?』
 絶対あるって、とかすかに飛び込んできたのはプロンプトの声だ。どうやら王子のすぐそばにいるらしい。しかしそこまで断言できるものがなんなのかまったく察しがつかない。一体何だと先を促すと、ノクティスはやはり嬉しそうに言った。
『コル』
「……」
 クラウドは一瞬黙った。
 そして答える。
「……いけるぞ。コルだな。また厄介な洞窟か何かか」
『そうそうそう! あ、できればギリギリまで内緒にしといてくんね? なんか怒られそう』
「しょうがないな……」
『うわーめっちゃ助かる! サンキュな!!』
「ああ」
 終話をタップし、携帯を置く。
 そして先程からずっと自分の腹を抱えているたくましい腕に手を添えると、至近距離でじっと自分を見ている男に笑顔で告げた。
「コル、王子があんたに用だ。理由はよくわからないが王家に関することらしい」
 嘘は言ってないぞ、と得意げに言ったらなぜかかわいそうなものを見る目で見られた。

三度の飯が好き

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