[2019/02/13]コルクラ

ドンの飼い犬:ぱんさんから、ティファちゃんに拾われる前にドンに流れたクラウドちゃん / コルクラ / 文庫ページメーカー

 ドン・コルネオはご機嫌だ。
 仕事はいつも通りだし、最近始めた嫁探しが上手くいっているわけでもない。新しい稼ぎ口を見つけたわけでも無かったが、それでも近頃のコルネオはご機嫌だった。長いこと右腕を勤めているソッチから見ると、ここ十年で一、二を争うくらいには、端から見ていて調子が良い。なにより一番下っ端で新入りの部下にも、「ドン、何か良いことあったんですか」と聞かれてしまうくらいだ(ドンは常々「ボスは何考えてんのかわかんねえのがちょうど良い」とか言っていたくせに、である)。
 そしてコルネオのご機嫌は今日も続いていた。
「ん~ふふふ、ほひっ、どれがいいかな~、どれが良いと思う?」
「自分に服装センスを求められても困りますよ」
 鼻歌交じりに広げられた服を見ても、正直なところ「布が薄い」以外の何の感想も浮かばない。自分で着る服以外は最低限見られるようにはしているものの、他人のためとなると問題外だ。
 だが、コルネオは気にすること無く「そうか~そうだよなあオレが一番だもんなあ~ほひっ」などと言いながら、次から次へと箱を開ける。中身はすべて似たり寄ったりの、布面積が極端に小さいか布の厚みが極端に無いかの服たちだ。最初この箱が屋敷に届いたときは花嫁候補に着せるのかと思ったが、この喜びようを見て違うと確信した。
「全部女物じゃないですか。似合うんですか、それ」
「何言ってんだ似合うに決まってんだろ!」
 間髪入れずに反論された。ここまでの入れ込みようとは。
 ソッチはそれ以上何も言わず、ただ鼻から息を抜くと、これからコルネオが向かうであろう寝室の片隅を見る。
「……まあ、そんな見た目はしてますけど」
 コルネオが愛用するベッドのすぐそば、これでもかと大量に積まれたクッションの上。
 そこには、視線をうつろに彷徨わせる人形がいた。
 ある日唐突に、身の程知らずの家から取り上げてきた戦利品。かつ、コルネオが好きな時に性欲を発散させるための玩具。いずれかの役割を期待されてここに連れてこられたのは、自分の名前もろくに言えない、壊れた美しい青年だった。
 コルネオに言わせれば「たまに良い感じになる」らしいのだが、ソッチには知る由もない。ただわかるのは、これを手に入れてからのコルネオはひたすらに機嫌が良い、ということだった。なにせ花嫁捜しに失敗しても、この玩具を思う存分虐めればコルネオの中ではそれが「なかったこと」になる。なにせそこらの女のように、わざわざ避妊をする必要がない。それになにより、彼はコルネオが入れ込むだけの素質と体質があった。
「この眼、わかるかソッチ? こいつぁあれだ、ソルジャーだ。な、最高だろ?」
 手に入れたその日、ドンはひどく興奮しながらソッチにそう語った。何が最高かなんてわざわざ言われるまでもなかった。
「――お、これだ、こいつがいいな! ほひ~お待たせ!!」
 結局ほかのものと見分けがつかないような布きれを選び出したコルネオは、飛び跳ねんばかりの勢いで青年の元へ向かう。ソッチはその後ろ姿を見届け、出口へと立った。
「ほどほどにしといてくださいよ」
 きっともう聞こえていないだろうと思いながらそっと扉を閉める。
 くぐもった嬌声を意識の外に追い出しながら、ソッチは自分の持ち場へと戻っていった。

三度の飯が好き

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