スマブラのあれ / 赤眼クラウド / 文庫ページメーカー
部屋が寒い。
そもそも部屋なのかも解らない。でも、壁があって天井があって、誰かが来るときに開く場所があるから、たぶん部屋だ。長いこといる気がするこの場所は、その長いこといる間で今日が一番寒かった。窓もないから今日なんて言っていいのか解らないが、起きたときに凍えるかと思うくらい、周りの空気が冷たかった。
扉は——扉と思うことにしている場所は開いていない。誰かが開けっ放しにしたのかと思ったがそうじゃないらしい。
「……そりゃそうだ」
開くわけがない。誰も来ていないのだから。
手に負えないとか、しつけがなってないとか、噛まれちゃ困るとか、そんなことを言われて押し込められたこの部屋には、少し前まで誰かが来ては、ご飯やおもちゃや、いろんなものを置いていった。そして、たまに運動だとか散歩だとか言って、リードを引っ張って外に連れ出してくれた。
でも、このごろずっと、この部屋の扉は開いていない。窓がなくても目は見えるからどこに何があるのかは解ったし、もとより何も食べなくてもいい身体だからご飯がないのも困らなかった。ただ、いらなくなったから置いて行かれたんだろうというその事実だけは、少しだけ重たかった。
「……」
寒い。
吐く息も白くなってないのに何でこんなに寒いんだろうかと首を傾げながら、そこかしこに散らばるおもちゃのうち、一番近いものを手に取る。少し前まであったかかった、今はもう冷たくなっているそのおもちゃの指を適当に弄っても、体が温まるわけではなかった。
「……」
ふと思いついて、その手を頭の上に載せてみた。大人の男の人の手のようだから、最後に来てくれた誰かの真似をしたらそれっぽくなるかななんて思っただけで深い意味はなかったが、その日のことは少しだけ思い出せた。
ステイ。誰かが部屋に入るときに必ず言う言葉だ。その一言で大人しくしなければ、リードをきつめに引かれて叱られる。その日も同じことを言われて、たまたま気が向いたから言うことを聞いて、ご飯をもらって、本当に気まぐれで最後までじっとしていたら、帰る前に撫でてくれた。なんて言ったか、もう忘れたけど、そう、たしか、
「……いいこいいこ? だっけか?」
ぼた、と何かが膝に落ちた。何だろうと人差し指ですくってみたら、それは生温かい水だった。こんなに寒いのに、どこからこんなものが出てきたのか不思議でならなかったが、別に気持ち悪くはなかったのでそのままにした。なによりあったかいものだ。寒い今はちょうどいい。いっぱい出てきてくれれば、体が温まるかもしれない。
「いいこ、いいこ」
ぼたぼたと、あったかい水が落ちてくる。
これで少しは寒くないなと笑いながら、水がすっかり出なくなるまで、クラウドはずっとそうしていた。