[2018/10/10]バツクラ

あなたとごはんを:二人と元彼 つづき / バツクラ / 文庫ページメーカー

 寝ぼけたクラウドの妄言でも何でもなく、突然来襲してきた熊男は本当に知り合いらしい。しかも休みの日、こうなることを見越してたまに食事を届けに来てくれる程度には昔馴染みだという。
「あいつ料理がからきしダメだろ? で、たまの休みは途端にコレだし、心配でしょうがなくてよ。メシ届けがてらたまに様子見に来てやってたんだ」
 おまえさんも食うか、なんて言われて紙袋から義手じゃない方の手でテーブルに出されたのは、紙製のランチボックスだった。ヤバいことが書かれた書類が詰まっているんじゃないかと思った紙袋は、よくよく見てみたらおしゃれなフォントで店の名前らしきものが書いてある。
「おれも? 食っていいの?」
「おうよ。あいつはどうせあんまり食わねえだろうし」
 寝るだけじゃなくてちゃんと食えって言ってんのになあ——と、熊男はクラウドが消えていった寝室を見やった。手っ取り早くバッツと熊男——バレットを紹介し、再びベッドの中に戻っていったクラウドは、あれから起きてくる気配は見せていない。確かにこれは朝ご飯を食べるような気配ではない。
「じゃあお茶かなんか入れるよ。おっさん何飲む?」
「オレぁいい、すぐ帰るから」
「ええー」
 だが、バレットは本当に帰るつもりらしい。最初こそいきなりクラウドが元彼だ何だと言うから思いっきり動揺してしまったが、実際話してみれば良い人っぽいものだから、もう少し話を聞いてみたかったのだが残念だ。
「まあいっか、また来てくれよ。そん時ゆっくり話そうぜ」
「おう。悪いな、あいつが世話かけて」
「いやーおれが勝手に居候してるだけだからさ、恩返しだよ恩返し」
 すると、一瞬だけバレットの目が見開かれた。だがそれも、どんな感情から来るものなのか判断する前に、厳つい割に人の良さそうな笑顔に戻ってしまう。
「そうか、ま、よろしく頼むわ」
「おう、頼まれた」
「じゃあ顔だけ見て帰るかな」
 バレットはのしのしと、だができるだけ音は立てないようにドアが開けっ放しだった寝室に入っていく。
 バッツはバッツで、紙袋に入っていた残りのランチボックスを数えたり、冷蔵庫に入れた方がいいかななどと中身を見ていたが、ふと気になって寝室の方に目をやった。
 ——そして、やっちまった、と後悔した。
 何を話しているのかはそれなりに距離があって遠かったし、声も小さかったからわからない。だが、ほんの少しだけベッドから顔を出したクラウドと、そのクラウドに何か話しかけているバレットの二人の間にある空気は、バッツの間にあるそれとはまた違う、重ねてきた年月を感じさせるようなそれだった。バレットがクラウドの頬に手を遣りさらに額にキスをし、クラウドもクラウドでわざわざ布団から手を出してバレットの手に触れてやっているあたりも、元彼という言葉に信憑性が増す。
 たぶん別れたあとでもそれなりに仲がいいタイプだ。
 納得したと同時に——なぜか無性にイラついた。
(……えっいや何でだ、何でこんないらいらするんだおれ)
 べつに関係を解消したとしても、友達付き合いをしているようなタイプは結構いる。それに何より自分はクラウドの今の恋人でも何でもない居候だ。だから彼ら二人が何をしたって別に気にする必要はないのに、どうしてこんなにイヤな気分になるんだろうか。
「——それじゃ帰るわ」
 だが、そのぐるぐるとした思考の渦は割り込んできた声に断ち切られた。知らず知らずのうちに紙袋に落としていた視線を上げれば、そこには後ろ手に寝室の扉を閉めているバレットがいた。
「いきなり上がり込んじまって悪いな」
「あっああ別にぜんぜん気にしてないぞ」
 玄関まで送るわとのこのこついていく。やっぱり後ろから見ると山か熊にしか見えないなあなんて失礼なことを考えていたら、ドアノブに手をかけたバレットが不意に振り返った。
「わ」
「こんなことオレが言うのも違うかもしれねえが、あいつをよろしく頼む」
「え」
「それじゃあな。たまには店に来いって伝えといてくれや」
 何かを言う暇もなく、バレットはさっさと出て行ってしまう。
 遠ざかる重たい足音を聞きながら、バッツはまた頭の中がぐるぐる回り始めたのを感じていた。

三度の飯が好き

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