[2018/09/12]バツクラ

マシュマロリクエスト ココアを飲む二人 / バツクラ / 文庫ページメーカー

 もはや恒例となった家捜しで見つけたその袋に書かれていた品物の名前は、バッツが読めない文字だった。しかし、その袋に描かれている絵ですべてを理解した。
 念のためクラウドを呼んで見て貰ったところ、彼には読める文字だったようで、バッツの予想に対してあっさりと「合ってる」と答えてくれた。
「ココアだ」
「作り方は?」
「……お湯沸かして、入れるだけみたいだ」
「オッケーサンキュ!」
 きわめてシンプルなやりとりを終えたその数十分後。バッツの両手にはほかほかといい香りの湯気が立ち上るマグカップが握られていた。
「クラウドー? クラウドどこだー」
「こっち」
「おー」
 声が聞こえてきたリビングに向かうと、そこにはソファーにゆったりと腰掛け、ぼんやりと外を見ているクラウドがいた。外にいたときのきりりとした雰囲気はどこへやら、すっかり気が抜けてくつろぎモードになっている。
「うんうん、いい感じですな。こいつを飲むにはそうでなきゃ」
「?」
「ほら」
 少し詰めて貰ってソファーに腰掛け、マグカップの片方を差し出すと、クラウドはうれしそうな表情を浮かべ——たがそれは一瞬だった。なぜか彼はマグカップを目の前のテーブルに置くと、大急ぎでどこかに行ってしまう。
「え、おい、ちょっと?」
 そんな逃げるほどかよ、と傷つきながら自分のカップに口を付ける。我ながら味は結構いいし、香りだって最高だ。いったい何がそんなに嫌だったのだろうか——悲しい気持ちで頭を捻っていたら、やがて飛び出していったクラウドが戻ってきた。
「悪い、バッツ、ちょっと時間かかって」
 そう言いながら帰ってきた彼の両手には、これまた謎の文字が書かれた透明な袋と、二組のブランケットだ。
「ココアならこれだ」
 どうやらそれを探しに行っていたらしい。また元のように隣に座ってくれたクラウドにくっつきながら、腕に抱えられたブランケットのうち一枚受け取る。
「そっちは? 何だそれ」
 透明な袋の方には、白くてふわふわした何かが詰まっていた。綿か何かだろうかとも思ったが、見ているうちにやがて気づいた。
「もしかして」
「そう、マシュマロ」
 クラウドは袋の口を開けると、二つほどマシュマロをつまみ出して自分のココアのカップに入れる。熱いココアに浮かんだマシュマロが少し溶けるのを待ってから、彼は今度こそ口を付けた。おいし、なんて可愛らしいつぶやきを漏らした後、まるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべる。
「母さんがよくやってくれたんだ」
「それいいな! おれにもくれよ」
「いいよ」
 差し出したマグカップに、マシュマロを三つほど摘まんだクラウドの手が伸びる。だが、ココアに離す前にぴたりと止まった。
 あれ、と顔を見上げれば、そこにはいたずらっぽい色が浮かんでいる。ああ、何かする気だなと思った瞬間、ココアが少しだけついた唇が動いた。
「……一個につきキス一回な」
「えっじゃあもっとくれ」
 というか袋ごとくれ。
 そう本気の目で伝えながらクラウドの口の端を舐めてやったら、望むところだと今度は向こうから食いつかれる。馬乗りになったクラウドの目はすっかりその気だ。
「冷めるぞ?」
「温め直せばいい」
「そっか、それもそうだな」
 甘い甘いキスを受け止めながら、バッツは相手の服の下に手を滑り込ませる。クラウドはクラウドで、まるでずっと今までお預けを食らっていた狼のように、バッツにもっととキスを強請る。
 結局二人がココアを飲み干せたのは、それからうんと時間が経った後だった。

三度の飯が好き

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