[2018/08/25]レノクラ

うータイでご飯食べるまだくっついてない二人 / レノクラ / 文庫ページメーカー

 ウータイで遭遇したのは全くの偶然だった。だというのに、相手はレノの顔を見たとたん、露骨に機嫌の悪そうな顔をした。
「おっと、そんなに睨むなよと」
「……仕事ならお断りだ」
「仕事じゃない、フツーに偶然」
「嘘つけ」
「信用ないのな」
 一つだけ席を空けて座り、店主に軽いつまみと酒を注文する。一方のクラウドは酒目当てというよりは晩飯目当てのようで、その目の前の卓には食べかけの丼が鎮座していた。
「……やらないぞ」
 視線に気づいたのか、クラウドの手がさっと丼を覆いレノから遠ざける。そこまで食い意地は張っていない、と思わず苦笑いした。
「それにオレは酒目当てだぞ、と。メシはいらない」
「そういうものなのか」
「そういうものだぞと。酒飲むときはそうだろ」
「俺は飲んでるとご飯食べたくなる」
 変わった奴だなと笑うとクラウドはただ首を傾げた。どうやらそういったものすら、クラウドにはなじみがないらしい。つくづくとっぽい奴だと苦笑いしながら、店主から酒とつまみを受け取る。
「お前もこういうところ来るんだなぁ」
 ぽそりと呟いたら、碧い瞳がちらりとこちらを向いた。
「一応、腹も減るから」
「そりゃあそうか」
「……なんだよ」
「いいや、何も?」
 さっさと食っちまいな、とレノは手をひらひらと振る。クラウドはただ鼻を鳴らし、また目の前の丼を引き寄せた。
 こいつは本当によく食べる。身体のどこに入っているのかさっぱりわからない位の量を口の中に放り込んでは、黙々と咀嚼して飲み込んでいくのだ。もしかしたらちゃんと栄養になってないんじゃないか、と見る度に思ってしまう。
 ——そして、こいつは飯を必要とするただの人間なのだ、というあたりまえのことにも気付かされるのだ。
「……なあお前、この後時間あるか」
「ん? あるけど、宿に帰って寝たい」
「飲もうぜ」
「いやだから帰って寝たい」
「ここから先にも美味い飲み屋があるんだ、そこ行こうや」
「話聞け」
「お前だってオレの話聞かないだろ、と」
 だからおあいこだと言って、レノはさっさとつまみを片付け、酒を飲み干す。金をカウンターに置いたところで、レノにはもう反論を聞き入れる様子がまるでないことをようやく察したクラウドは、自分もまたどんぶり飯を一気にかきこんだ。そして満足そうな笑顔を一瞬浮かべて「ごちそうさま」と呟く。つくづく素朴な育ちのやつだ。
 だがその感想は次の一言で吹っ飛んだ。
「つきあってやるんだから奢れ」
「ああ? しょうがねえな、あっち行ったらな」
「何言ってるんだ、今からに決まってるだろ。……おじさん、こいつが払うから」
「あいよお」
「ええちょっと待てよおっさん」
「良いじゃないの、奢ってやんなよ。気前の悪い男はモテないよ」
 モテなくて良いんだよと吐き捨てながらも、レノは結局押し負けた。渋々とポケットから再びマネークリップを出すとギル札をクラウドの目の前にべしんと置いてやる。
「ほらよ」
「さすが」
「いよっ色男」
「おっさんは黙ってろっつの。行くぞほら」
 クラウドを促し立ち上がると、「まいどー」などと腑抜けた顔で言う店主にちょっときつめの一瞥を送る。連れ立って暖簾をくぐると、表通りよりも少し薄暗い路地へと促した。
「ちゃんと美味しいところなんだろうな」
「あったりまえよ、と。まあ見てなさいって、タークスのグルメ通と言われた男ですよオレは」
「嘘くさいな……」
「だまらっしゃい」
 くだらないことを言い合いながら、気まぐれの酒へと誘う足取りは、いつもよりも軽やかだった。

三度の飯が好き

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