クラウドちゃんの笑顔 / バツクラ / 文庫ページメーカー
クラウドはよく笑うようになった。
以前会ったときは笑うことなどごくまれで、その顔の筋肉の動かなさについてはWOLとほぼ同じくらいだった。ひょんなことからセックスをする仲になってからもそれは変わらず、皆や誰かの前で笑うことはあまりなかった。
だから、神々に再び呼び出されてまた会えたときは、正直びっくりしたのだ。滅多に笑う事なんてなかったクラウドが、あんな風に何もないのに笑ってくれるなんて思いもしなかったのだ。
「……そう言われても」
ありのままそう伝えたら、クラウドはまた笑顔を浮かべた。今度のは困ったようなそれだ。
「あんたの前では一応笑ってたと思うんだが」
「笑ってたよ、笑ってたけどさあ」
「足りなかったか」
「いやあれで特別感あったけど」
そう、他の誰かの前では笑わなかっただけで、バッツと二人っきりの時などは笑ってくれてはいたのだ。だが、今のように顔全体の筋肉が動くようなそれではなく、やはりどこかしら硬さや緊張を感じる笑顔だった。感情の発露のような笑いかたでは少なくともなかった。
「さっきのすっげえ可愛かった。知らないうちに年上のお兄さんになってるしさ、もうどうしちゃったんだ」
「年上は前からだ」
「そうなんだけどそういうんじゃないんだよ」
こっちおいで、とバスタブの中で向かい合っていた身体を自分の上に座らせてやる。ちょうど目の前にきた背中にぴとりと額をくっつければ、またころころと笑い声が聞こえた。
「やっぱり狭いな、二人だと」
「次は風呂が広い部屋借りようぜ」
「借りる前に風呂見るのか?」
手を前に回すと、クラウドが完全に身体を預けてくる。頬が触れ合い、相手の鼓動が直に聞こえるただそれだけで、今日散々歩き回った疲れが癒されていくようだった。
「……なあクラウド」
「うん?」
「風呂あがったらえっちなことたくさんしよう」
耳の後ろを軽く食むと、くすぐったそうに身体をよじる。逃がすまいと身体を抱えたらお湯が盛大に揺れた。
「こら、暴れるなって」
「あんたのせいだろ。後でするんじゃないのか」
「これはえっちじゃない、スキンシップ」
そのまま胸板やへその周りを好きに撫でると、じわりじわりと抱えた身体が熱くなってくる。わざと敏感なところを掠めてやったら、こら、と怒られてしまった。
「のぼせるから」
好き放題していたバッツの手をクラウドの手が掴んで退ける。そして、止めるまもなくそのまま立ち上がってバスタブを出てしまう。
「先にあがるぞ」
「ええーもうちょっと入ろうぜ」
「あんたがいろいろしてくるから嫌だ」
シャワーでざっと身体を流したクラウドは、バスタブの縁に顎を乗せてぶーぶーと唇を尖らせるバッツを見遣ると、何を思ったのか結構な勢いで出ているお湯をぶっかけてきた。
「わぷっ」
「っはは」
あわてて防ぐと、また楽しさがありありとにじみ出ている笑い声が聞こえてくる。
「あっくそまた可愛い顔してるな!? 見たい!!」
「だめだ」
盛大な水の音に混じって、クラウドの気配がごく間近に近づいてくる。なんだまたなにか悪戯されるのかと身構えた瞬間、水音に混じってすぐ耳元で甘く囁く声が聞こえた。
「たくさんえっちしたいんだろ」
——ああもうその声反則だ。
だがその抗議はクラウドには届かず、一瞬どきりとして緩んだ手の隙をついてまたお湯の洗礼を文字通り浴びてしまう。
なんとか目に入ったお湯から復帰したバッツだったが、そのときにはもうすでにクラウドの姿は消えていた。