器用なバッツ君 / バツクラ / 文庫ページメーカー
バッツは器用だ。
いろんなことができるし、いろんなことを知っている。伊達に旅をしていないだけあって、特にサバイバルにかけては多分集まったメンツの中ではトップクラスだろう。特にロープや布の扱いにかけては、まるで己の身体の一部のように使う。
「……だからって縛って良いって言った覚えはない」
「良いって言ったじゃんか」
「なにか試すだけかと思ったんだ」
たとえば新しいロープの結び方とか、そういったのを試すもんだと思っていたのにこれは何だと目の前のバッツを見上げたら、彼はわざとらしく唇を尖らせた。
「クラウドが勝手に勘違いしたんだろ」
「紛らわしい言い方するからだ」
「それに途中でやだって言えばやめたのに」
「……」
クラウドはバッツの言葉に思わず黙った。確かに途中から「あれ、おかしいな」とは思ったし何か言おうと思ってはいたのだ。ただ、あまりにもバッツの顔が楽しそうだったので結局言う機会を逃してしまった。
その結果がこれである。
「服越しってのもえっちだなあ」
目の前に立っているバッツがしみじみとそう言った。
クラウドは今や全身にロープを巻かれ、身動きのとれない状態でベッドの上に転がされていた。後ろ手に縛られているせいか、胸を強調するようなロープが隠せずむしろさらけ出してしまうような格好になってますます恥ずかしい。うまく調節してくれたのかさほど苦しくはないのだが、それでも不自由な体勢でバッツの目の前に転がっているというのは屈辱だった。
「苦しくないか?」
「……ない、けど、」
「けど?」
バッツのにんまりとしたいつもの笑顔が目の前に来る。言おうとしていた言葉がその灰色が混じった瞳に見つめられて奥に引っ込んでしまった。
「……」
「なんだよ。けど、なんだ?」
言わないとわかんないぞ、とバッツはわざと声を落として耳元に吹きかけるように囁いてきた。脳を甘い痺れが襲い、己にはまるで似つかわしくない声がこぼれかけるも何とか抑える。
「っ、……」
絶対わざとだ、わざとに違いないと思うももう遅く、バッツのせいで熱を持った身体はそう簡単に治まってくれそうになかった。
バッツの指が、先ほどまで丁寧にロープを操っていた器用な指が、クラウドの腕を這う縄をなぞっていく。縄越しに伝わる感触が何とももどかしく熱を煽る。もぞ、と体を動かしたらめざとく気づいたバッツがまた笑った。
「ん? なんだ?」
手が離れる。
さきほどまであった感触がなくなり、切ないような悲しいような、よくわからない感情がクラウドの心の中をいいようにかき混ぜていく。
「クラウド、どうした?」
聞かなくてもわかってるくせに、この男はつくづく狡い。
「言えよ」
再度耳元に囁かれた、普段とはまるで違う荒い言葉に、クラウドはあっさりと陥落した。
「——っ、ぅ、さわって、……ちゃんと、さわって、ほしい」
「よくできました」
に、と太陽の獣が笑う。
その笑顔を最後に、クラウドもまた理性を手放した。