[2018/07/28]バツクラ

あなたとごはんを:この後普通に噂になった / バツクラ / 文庫ページメーカー

 朝目を覚ました瞬間に寝坊を確信する、今日はそんな日だった。
 慌てて飛び起きて身支度を整え、なんとかいつも乗っているバスに間に合いそうな時間には家を飛び出たものの、ギリギリのところで間に合わなかった。バッツが祈りを込めて角を曲がり、バス停を視界に収めた時にはちょうどバスが発進していた。急いで追いかけたものの気付いてくれず、結果ゼエゼエと息を切らしたまま一人バス停にたたずむことになった。
「あああああー……」
 珍しくアンラッキーである。もうこうなったら走り抜けるしかないか——そう肩を落とした矢先、聞き覚えのある、腹に響くような重低音が聞こえた。もしやと思った直後のパッシングで確信し振り返ったところ、そこにはバッツの幸運がいた。
「なんだよラッキーじゃん!!」
「俺はラッキーという名前ではないが」
「ごめんそれはこっちの話っていうか」
「なんだそれ」
 エンジン音に負けないようにしているのか、いつもより大きな声でその幸運は答えた。フルフェイスのバイザーを上げた向こうには、見慣れた蒼い瞳がある。これから仕事なのだろう、全身ライダースーツで固めた彼は正直なところかっこいい以外の言葉が見当たらない。肉付きの良い上半身からきゅっとしまった腰、そしてほっそりとした脚は、時間が許す限りじっと眺めていたい。
 たまんないなあという一言は飲み込み、バッツは両手を合わせて頭を下げた。
「頼む乗せてクラウド!! 次出席取る授業なんだよお!!」
 すると、クラウドはほんの少しだけその目尻を下げる。
「わかった。乗れ」
「あああああ助かる!!」
「あとで配達料くれよ」
「当然!!」
 放って寄越されたヘルメットを急いでかぶると、バッツはクラウドの後ろに跨がり、そしてちょっとどぎまぎしながらその腰に手を回す。
「場所は? たまに迎えに行くあそこで良いのか?」
「いい!! むしろそっちのが近い!!」
「解った」
「たのんだ——ぁぁぁああ速い速い速い速い!!」
 不意な加速でバッツの悲鳴が置き去りにされる。慌てて回した手に力を込めてしがみついたら、くっくっと手を置いた腹が動いたのが解った。
「あんたが急かしたんじゃないか!」
「そうだけどさあ!!」
「ならいいだろ!!」
「よくない!!」
 そんなに急がれたら、すぐ降りなきゃいけなくなるだろ——そんな悲鳴は、ついぞ言えることはなかった。

三度の飯が好き

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