クラウドちゃんを甘やかしたいリーブさん / リブクラ / 文庫ページメーカー
「局長大丈夫ですか」
「はぅあっ」
勢いでエンターキーを押してしまい、それまで無機質な検索窓だけを表示していた画面が真っ白な画面に遷移した。画面の中央、くくるくると回る円形の記号が、まさに今処理中であることを示している。
「あー……」
「すみません、何か作業されてたんですか」
「えっあっただのテストで、別に取り返しのつかないものでは」
ないです、と言い掛けた矢先、白かった画面に情報が表示される。いくつかのテキストと、その上のボックスに表示されている文字は三つほどの言葉であったが、それでも読み上げた秘書官が一瞬「ええ……?」という変な声を出す程度には相応しくないものだった。
「……『クラウドさん』『甘やかす』『方法』って局長、……本当に大丈夫ですか……?」
「もー勝手に読まないでくださいよ!! つい!! つい入れちゃったんです!!」
そう、単純な出来心だった。インフラ部門から、世界のネットワークを対象にした検索システムのテストをして欲しいと言われて、業務の合間に検索式の確認もかねて様々な単語を投入してはレスポンスを見たりなどしていたのだ。あらかたのデータがまとまったところでつい脱線してしまった。そして脱線した時にうとうとしていたのも駄目だった。
「あっでも五件くらいヒットしてますね、すごい」
「みんな的外れですけどね……」
「うわぁ本当にがっかりしてる」
そりゃあがっかりもしますよ、とリーブは端末を閉じながら答える。
「最近ね、あんまり甘やかしてあげられないんですよ。だからどうしたもんかなーって」
「えっこの話続けるんですか」
「続けますよ。振ったからには責任とってください」
私よりは暇でしょうと目の前の秘書官をにらみつける。実際、彼は下の売店から買ってきたらしいコーヒーとドーナツを手に持っていた。
「さんざん甘やかしてませんでしたっけ」
「そうなんですけど、最近は私が甘やかされてまして」
家に帰れば「おかえり」と抱きついてくるし、ちゅーしてほしいと言えば恥ずかしがりながらもちゅーしてくれるし、ともすれば言わなくたってしてくれるし、朝なんてコーヒーまで淹れて優しく起こしてくれるようになった。この前の休みなどは膝枕までしてくれたのだ。
「だから私が甘やかす暇がなくて。なんとかクラウドさんさんを甘やかしたいんですよ」
「心底どうでもいい……」
「何か良い案ありませんかね」
「いや僕の独り言聞いてました?」
何言ってるんだこの人はという視線を投げかけながらも、秘書官は自席に座り腕を組む。なんだかんだ言ってこの男、真面目である。
その真面目な男はしばらく考えた後、半ば投げやりに「ああ」と言った。
「もうベタでいいんじゃないですか、ベタで」
「ベタ」
「プレゼント買って帰るとかしたらどうですか。ちょっとしたお菓子とか。クラウドさん甘くないやつ好きでしょ」
それだ。
確かに最近は触れあいばかりに重点を置いていて、感謝の気持ちをもので表すなどはしていなかった。二人で食べられるようなものを買って帰ればさぞ楽しい食後になるだろう。さすがは神羅時代から右腕を務める男である、確実かつ信頼の置ける解決策を提示することにかけては天下一品だ。
「さすがです」
「まだ仕事中ですよ局長。帰りに買いましょう、帰りに」
そして上司の脱走にもめざとい。
リーブは勢いで上げた腰を渋々また椅子におろした。