レノさんの顔が好きなクラウドちゃん / レノクラ / 文庫ページメーカー
レノが寝ている。
「……はあ」
三度目の呼びかけにも返事がなく、まさかと思って見てみればそこには抱きついたまますやすやと安らかに寝ている赤毛の男がいて、クラウドは思わず溜め息を吐いた。
久しぶりに飯でもどうだと呼び出されて来てみれば、いつになく人なつっこい態度の彼に出迎えられ、そしていつになく手の込んだ食事を振る舞われたあたりでおかしいと思ったのだ。作ってもらったからには食器洗いは自分の仕事と台所に立っていたら、終わってもいないのにこの男はクラウドに抱きつき、そして問答無用でベッドに連れ込んだ。性急だなとは思ったが、そういうことについてはまあするだろうなと思っていたから、大人しく覚悟を決め——た矢先にこれである。
「寝るのか……」
まさか寝るとは。
クラウドはちょうど自分の目の前にある男の顔を睨んだ。睨んだところで相手にはどうということもないのだが、ここまで気を持たせておいてそれはない、という抗議の気持ちをぶつけたかったのだ。
寝息のリズムからしてどうやら熟睡しているらしい。こうなっては正直銃声でもしない限りなにをしても起きないだろう。
「……」
ここでクラウドはふと思いついた。
そして思いついたことを、そのまま行動に移した。抱えられているとはいえ自由だった手を伸ばし、そっとレノの顔に添えてみた。
(……起きない)
すごい、と思った。おそろしく子供じみた感想だというのは理解しているが、それでも、警戒心の塊のような男にこんなことができるとは思いもしなかった。
クラウドはそのまま、できるだけ優しく手を滑らせる。目の下のタトゥーを指でなぞり、手に触れた赤毛で少し遊んで、鼻をつまんで唇に触る。
ここまでしてもなお起きないのか、本当にこいつはどうかしたんだろうかと思ってまじまじと見ているうち、だんだんと目線が外せなくなる。
つくづく思うが、レノの顔はどうしようもないくらい「かっこいい」顔だった。世間一般の美意識などよくわからないが、クラウドにとってレノの顔はずっと見ていたくなるものの一つだった。時折一緒になる仕事で見せる冷徹な顔も、オフの時に見せる子供のような無邪気な顔も、そしてクラウドを抱くときの獰猛な雄の顔も、視線を外したいのに外せなくなる。これが釘付けというのだろうかとも思ったが、そのうち恥ずかしくなってそらしてしまうからたぶん少し違うだろう。
そして今回も、クラウドは視線を外してしまった。顔が熱い。たぶん今の自分は情けない顔をしているだろう。くだらないことはやめて自分も寝よう、と寝返りを打とうとしたその時だった。
「——なんだよ、もう触ってくれねえの」
予想以上に強い力だった。それまで緩く抱き込まれていただけだったのに、いつの間にか起きていたらしいレノの両手は身動きを許さずクラウドの身体を抱え込んでいる。翠の目に射竦められて、クラウドは思わず手で顔を覆った。
「あ、こら、ちゃんと見せろ」
「やだ」
「さんざん触っといて自分はイヤだってか」
そういうわけじゃない、という抵抗もむなしく、レノのしなやかな、しかし存外に男らしい指がクラウドの腕に絡み、そして剥ぎ取る。とっさに顔を横に背けたがもう遅かった。
「……オマエさあ、なんて顔してんだよと」
「うるさい」
「自分で触っといて自分で照れるとか、なに、そんなにオレの顔が好きか」
「ちがう」
「違くねえだろ。あーあーもう耳まで真っ赤」
おそろしく手際よくレノはクラウドの上に馬乗りになると、ちゅ、ちゅ、とわざと音を立ててこめかみやら頬やらにキスをする。それがますます恥ずかしい。なにより熱がこもってしょうがない。
それを見透かしているのか、レノはにやりと視界の端で笑った。
「しょうがねえなあ、ここまで期待されたらお応えするしかなくなっちまった」
「……期待なんてしてない」
「はいはいそうですか。でもイヤじゃねえんだろ、と」
「……」
レノがその顔に雄の色を滲ませる。
ああもうどうしようもなく好きな顔だ、と思う間もなく、クラウドは呼吸を奪われた。