運搬船でのあれこれ / バレクラ / 文庫ページメーカー
「……お前そういうの似合うな」
何気ない一言にクラウドの視線が動く。
身分を偽り潜り込んだ運搬船で休憩場所として潜り込んだ船倉の奥、バレットはたまたま同じ時間に休憩を取っていたらしいクラウドに遭遇した。
彼は背の低い空きコンテナに腰を下ろし、神羅兵の主武装として支給されているアサルトライフルを自分の身体に立てかけていた。その様子が妙に馴染んでいて、出会い頭に思わずそんな一言が出てしまったのだが、クラウドは特に気を悪くした素振りは見せず、「そうか」と返してくる。
「あまり嬉しくはないがな」
「そうだろうよ」
「あんただって似合ってるぞ」
「それこそ願い下げだぜ、こんなもん」
場所を空けてくれたクラウドの隣にどかりと腰掛ける。デザインもさることながら、着られないことはないがかなり小さいサイズの服が、太ももやら尻やらに圧をかけてくるのがまた不快だ。
「どことなくかわいらしいからマリンに喜ばれるんじゃないか」
「うるせえ」
荷物になることには変わらないし、当然向こうに着いたら捨てるつもりだ。そう言ったら、やはりさして興味もないのか「ふうん」という音だけが返ってくる。
その反応がなんとなく癪だったバレットは、ふと思ったことを口にした。
「それにしてもよお、慣れてんなお前」
「うん?」
「ソレぶんぶん回してたろ。見送りの式典で。器用だな」
「ああ、うん、あれか」
クラウドの目線が手元の銃に向く。
「身体が覚えてたんだろう。入隊して、最初のあたりでたたき込まれるから」
「もっかいやれよ」
あれは実に新鮮だった。普段鉄の塊めいた武器を振り回している奴が全く系統の違う得物を持っていたということもあるが、隊長の命令に従ってそれなりに緊張した面持ちで銃を取り回すクラウドが入隊したばかりの新兵に見えて実に面白かった。緊張とは裏腹に、そつなくこなしてしまったのはいささか癪だが。
するとクラウドはまたバレットに視線を寄越し、淡々と言った。
「嫌だね」
ほぼ予想通りの拒否だった。
「言うと思ったぜ」
「じゃあなんで聞いたんだよ」
「いや、ダメ元でな」
「……見たいのか? あんた」
「まあな」
特に包み隠さず答えると、ヘルメットのすぐ下の瞳がぱちくりと瞬く。心底意外だ、そう言っているようだった。
クラウドの口が開く。
だが、何か言う前に船倉の扉が開く音がした。
「——あ、いたいた。おーい、休憩終わりだぞそこの新兵」
呼びに来たのは、つい先程ドリンクをくれた水兵だった。後ろには神羅兵の制服が続いているから、これは先に休憩に入っていたクラウドに対する呼び出しだろう。了解、なんて殊勝なことを言いながらクラウドはコンテナを下り、慣れた手つきで銃を抱える。
「じゃあ、先」
「おう」
だが、船倉を出て行く直前にその足音が止まった。なんだ忘れ物かと視線を向けたら、クラウドの顔がこちらを向いていた。
ヘルメットに隠されていない口元がほんのわずかな弧を描く。
「気が向いたらやってやるよ」
思いも寄らない一言に一瞬だけ息が詰まったが、その息はすぐさま、へっ、という笑い声に変わった。
「期待しねえで待ってるよ」
応えるようにクラウドの右手が上がる。
それを最後に、船倉の扉は再び閉まった。