モーテル / レノクラ / 文庫ページメーカー
皺だらけの紙幣が目の前にあった。
まだ日が昇ったばかりの時間帯だろう、灯りの落とされた部屋の中は薄暗い。ついさっきまで——といっても、実際は数時間前だろう——近くにいたはずの男は影も形もない。今まで目を覚ました時に近くにいたためしはないが、それでも、この紙幣だけが置かれている光景はいつまで経っても慣れなかった。
(……慣れるつもりもないが)
おそらくポケットからそのまま出したでありうそれを握りしめる。情事の名残が放り込まれたダストボックスに一緒にぶち込んでやろうかと思ったが、曲がりなりにも金は金だと思いとどまった。
あの男と——レノと身体の関係を持ち始めて二ヶ月ほど。最初は成り行きというか、いろいろな事情が重なってのことだった。金を渡してきたのはあちらが先だ。おそらくクラウドを、単純に性欲発散の相手として見ている、その証だった。
奴に言わせればそこらの女よりだいぶマシ、らしい。勝手に来て勝手に呼びつけて勝手に抱いておいてどういう言い草だとその時は蹴り飛ばしてやったが、そんな男に呼ばれて最終的に断りもせずにこうして部屋にいる自分が言えたことでもない。
「……何してるんだろう」
呟いた一言には何の返事もない。
クラウドは自嘲の笑みを漏らすと、放り捨てられた服を手に取った。